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【中東情勢の地政学リスク】インテリジェンスで読み解く海外有事の兆しと企業の安全対策:イラン戦争のエスカレーションを予測した弊社事例
1.イランを巡る武力衝突の現在地と地政学リスク
2025年6月にイスラエルとアメリカがイランの核関連施設等を爆撃した“12日間戦争”を受けて、弊社では“中東の地政学クライシス:12日間戦争から読み解く核拡散の脅威と企業の安全対策”と題するコラムを掲載している。この時イランはカタールの米軍基地への反撃に踏み切ったものの、アメリカのトランプ大統領が突然停戦を宣言して事態は沈静化した。
しかし2026年2月28日、アメリカとイスラエルが再びイランへの大規模な攻撃を開始した①。初日の攻撃でイランの最高指導者であったハメネイ師が死亡したほか、革命防衛隊の幹部も多数死亡した。アメリカのトランプ大統領は“イラン国民は政権を掌握せよ”と呼びかけ、体制変換を期待する意向をも示していた。これに対してイラン側は周辺中東諸国の石油関連施設を含む広範囲に報復攻撃を展開したほか、革命防衛隊がホルムズ海峡を封鎖した。その後イスラエルはヒズボラを標的にレバノン南部国境へ地上侵攻し、首都への空爆も実施するなど、イランとレバノンを舞台にした極めて深刻な武力衝突へと発展した。
アメリカとイランの攻防が及ぼす経済への影響
<p>トランプ大統領の発言は一貫性に乏しく二転三転していたが、当初のアメリカの目的は、イランの体制転換、核開発の完全放棄、長距離弾道ミサイル開発の阻止、イラン海軍の壊滅、親イラン勢力の壊滅にあったとみられる。<br>軍事力に劣るイラン側は、周辺中東諸国、特にエネルギー関連施設を攻撃するとともにホルムズ海峡も封鎖することでエネルギー価格をつり上げ、停戦圧力をかけていたように考えられる。実際ホルムズ海峡が封鎖されたことによって原油価格は急上昇し、次のイラン最高指導者としてハメネイ師の次男であり、反米・反イスラエルであるモジタバ師が選出された3月9日にはWTI先物価格が一時119USD台まで高騰した。</p>
<p>ホルムズ海峡の開放はアメリカの重要目標の一つとなり、ホルムズ海峡の航行に関して友好国に協力を要請するも色よい反応は得られず、アメリカの孤立が目立つ展開となった。</p>
停戦合意の複雑化と流動性の高まり
<p>攻撃の応酬が続く中、4月7日にパキスタンの仲介でアメリカとイランが2週間の停戦合意に至り海峡開放の兆しが見えた翌日、イスラエルがレバノンを総攻撃したことでホルムズ海峡が再封鎖されるなど、レバノン戦線での動きがアメリカとイランの交渉を複雑にするという構図が形成された。結局アメリカとイランの停戦協議は合意に至らず、ホルムズ海峡の封鎖・開放を軸とした駆け引きや、停戦合意期限寸前の延長を繰り返すなかで、比較的小規模な小競り合いが散発した。</p>
<p><br>事態が再び大きく動いたのは6月7日で、イスラエルがヒズボラを標的としてレバノン南部やベイルートを攻撃していたことに対してイランがイスラエル本土へのミサイル攻撃を実施し、イスラエルもまたイランに対する空爆を実施した②。アメリカとの4月の停戦合意以降、イランはイスラエルを直接攻撃していなかっただけに<span style="font-family: arial, helvetica, sans-serif; font-size: 16px;"><span><sup>[1]</sup></span></span>、両国が戦火を交えたことは大きな出来事であった。これを受けて両国の間に位置するイラクでは空域封鎖が実施されるなど、地域の流動性は極めて上昇した。</p>
<p><br>しかし6月14日、トランプ大統領はイランと和平の枠組みに関する合意に達したと表明し<span style="font-family: arial, helvetica, sans-serif; font-size: 16px;"><span><sup>[2]</sup></span></span>、両国の署名を経て同月17日に発効した。イランの核開発計画など大きな隔たりのある課題については、発効から60日間の継続交渉に委ねられることとなった。</p>
2.2026年2月末の武力衝突勃発の兆しを1か月以上前に警告できた理由
前章①の通り、イラン戦争は2月28日に始まった。弊社ではその1か月以上前の1月14日に一部クライアント向けに緊急のアラート情報を発出している。
以下はその抜粋である。
- アメリカ軍がカタールのアル・ウデイド米空軍基地に駐留する一部要員に対し、14日夜までに基地から離れるよう勧告を出した
- 2025年6月にアメリカがイランの核施設を空爆した際にも一部要員と家族に対し退避措置が取られていた
- 米軍施設のみならずその他ソフトターゲット(宗教関連施設や市場など、人の多く集まるような施設など)がイランの報復対象になる可能性も排除できない
このアラート情報を出すに至った最大の要因は、2点目に挙げた「過去の空爆時と同様の動き」という点だ。
前述の12日間戦争でもその前触れとして同様の事象があったために、弊社では大きな軍事活動の前兆となるインテリジェンスと判断し、クライアントへの予防的な注意喚起としてアラート情報を発出する判断を下した。
安全管理担当者へ推奨した具体的な対応策
弊社が発出したアラート情報ではさらに各社の安全管理担当者が適切な初動対応をとれるよう、以下の対応を推奨している。
- アメリカ・イスラエル・イランの権益関連施設・軍関連施設・宗教施設・エネルギー関連施設等には近づかず、外務省・在外公館・各種報道などから最新情報の取得に努める
- 出張者・駐在者の渡航先を確認し、事態がエスカレートした際には外出を控える、オフィスや居宅の備蓄を確認する、代理店に航空券を問い合わせるなどの対応を検討する
イラン戦争の勃発に伴う退避行動について弊社が得ている情報(一部)
| 製造業A社 | 数名が政府チャーター機を利用して退避 |
|---|---|
| 金融業B社 | 手配した航空券の一部に発券トラブルが発生 |
| 通信業C社 | 中東経由便を利用予定だった社員への対応漏れが発生 |
また、弊社提携の旅行会社によれば、イラン・イスラエルから陸路で第三国へ移動したのちにようやく退避できた事例があったという。
もし各社の安全管理担当者がイランにおける武力衝突の危険性にいち早く気づいていれば、有事が発生してから慌てて対応に追われるのではなく、あらかじめいくつかの対応シナリオを想定のうえ、緊急事態発生後の状況を注視しながら適切な対応行動にスムーズに移ることができたものと考えられる。
3.2026年6月の再エスカレーションを先んじて警告したインテリジェンス
同じく第1章の②では6月7日にイラン-イスラエル間で攻撃の応酬が確認され、事態の流動性が高まったことに触れた。この場面においても弊社ではその4日前の6月3日に緊急のアラート情報を発出し、事態のエスカレーションを先んじて警告している。以下はその抜粋である。
- 6月3日にイランはクウェートおよびバーレーンに対してミサイル攻撃を実施、米軍はその対応としてこれを迎撃するとともにイランのケシム島を攻撃、さらにこれに対する報復としてイラン側はバーレーンの米軍に対してドローン攻撃をおこなうなど、双方の武力行使のレベルが再び高まる兆候が見られている
- イスラエルは特にレバノン南部での軍事行動を強めており、5月31日にはレバノン南部の要衝ボーフォート城跡を掌握した
同アラート情報の発出に至った最大の要因は、イランが再び周辺湾岸諸国への攻撃を激化させたさまが、イラン戦争初期の広範な報復の連鎖に酷似していたためである。前章のアラート情報同様、弊社内の協議を経て大きな軍事活動の前兆となりうる重要なインテリジェンスと判断し、アラート情報の発出を決定した。弊社アラートの翌4日には米国務省も中東各国の大使館を通じて中東に滞在する自国民に注意喚起を一斉送信しており、実際に事態はイラン-イスラエル間の約2か月ぶりの直接攻撃の応酬やイラクなど一部中東諸国における空域閉鎖へとエスカレーションを見せた。
なお、今回のアラート情報でも、担当者向けに以下の対応を推奨している。
- 外務省・在外公館・各種報道などから最新情報の取得に努める
- 関係者を可能な限り早期に中東地域から退避させ、滞在せざるを得ない場合も身の安全を守る行動・備蓄の確保などを確実にする
- フライトがキャンセルされるなどの影響が考えられるため、代替ルートの検討も並行して行う
- 中東以外の地域であってもアメリカ関連施設には近づかない
4.「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」専門家チームによる安全対策の重要性
本コラムの執筆は6月17日合意に規定する60日間の序盤である。この合意ではすべての戦線での軍事作戦の即時かつ恒久的な終結が宣言されており、これにはレバノンでの戦闘も含まれる。しかしイスラエルは、自身は合意の当事者ではないとしてレバノン攻撃を継続しために、6月20日にはイランがホルムズ海峡を再封鎖するに至っており[3]、引き続きイスラエルの動きは合意の土台を揺るがす不確定要素として注意深く見守る必要がある。イスラエルの立場から見れば、イラン政府は戦前よりもイスラエルに対して強硬な立場をとる者が占めるようになり、ヒズボラをはじめとするイスラエルの主要な敵対勢力も排除できていない[4]中でアメリカはイランと停戦合意に達し協議するとしている。このような状況ではイスラエルはレバノン南部を緩衝地帯として譲ることができず、ヒズボラとの衝突継続は必至である。
情報を「インテリジェンス」へ昇華させる難しさ
各企業の安全管理においては、中東情勢に限らず日ごろから自社が展開する地域に関する地政学リスクの情報収集に努め、自社従業員の安全に関わるような情報やその兆候をいち早く手に入れることが重要であるが、各種ニュースソースやメディアを検索することで情報の収集自体は難しくない。
一方で、あまりに入手できる情報が膨大になった今日では、どの情報に注目し、何をノイズとして捨てるかの判断能力が求められる。さらに、選択した情報が自社の関係者の安全にどのような影響を及ぼし得て、それを防ぐための対策はどうあるべきかという、情報を適切に取捨選択し分析したうえで自社の行動を判断するに足る“インテリジェンス”へと昇華する必要性に迫られている。
これはいわば“質”の観点におけるソリューションであり、第2章と第3章で紹介した事例はいずれも弊社コンサルタントが日常的に世界各国のニュースを分析する中で事態のエスカレーションをいち早く察知し、即時の社内協議を経てアラート発出を決定したものであり、クライアント各社への影響予測やとるべき対応策までを提示した実績である。
歴史の「韻」を読み解く専門体制の構築を
どちらの事例でもアラート情報の発出に至った決定打は、“過去に起こった武力衝突時と似た出来事が発生したこと”であった。“歴史は繰り返す”とは言い古された言い回しであり、直感的でわかりやすくもあるが、実際には過去と全く同じ状況などというものは起こりえない。イラン政権は同じでもそれを構成する指導者は同じではない。むしろ“歴史は繰り返さないが、韻を踏む”というほうが実態に近いであろう。
つまり各企業がいち早く自社の安全管理に関わる情報をインテリジェンスに昇華するには、過去の海外有事の事象や背景を蓄積したうえで、過去に発生した事態との類似性や関連性とをつなぎ合わせて目前の情報を解釈する必要があり、他の業務を兼務しながら安全管理を担当するのは相当な負担となるため、専属的な人材が取り扱うべきタスクと言える。
今回、事例で紹介したイラン戦争のほかにも、感染症の流行や犯罪組織と軍・警察の衝突など、海外で自社従業員が巻き込まれうる事案は多岐にわたり、これには各リスク分野に精通した人材がチームとして安全管理を担うことが望ましい。複数の専門家で構成されるチームとして海外での有事に備える体制を構築することが、いち早く適切な対応策を推進するために各企業に求められるところであるが、海外有事にそれだけの体制を揃えることのできる企業はそう多くはないはずだ。
弊社の海外危機管理コンサルティングソリューション
弊社では、これまでの海外危機管理に関するコンサルタント業務における知見や、所属コンサルタントの豊富な経験に基づいてそれぞれの見地から一体的かつ総合的に判断を下す環境が整っている。各々がこれまで蓄積してきた海外有事に関わる知識と、各クライアントが遭遇した海外有事を支援する中での実践的な知見から総合的に判断し、真に注目すべき情報の目利きと、各クライアントが取るべき対策事項を高い確度で提供する体制が整っている。
近年は国家レベルのアクターが活発に危機の最中にいる事象が目立ってきているために、これまで耳目を集めていたテロ組織や組織犯罪の影が薄くなったように感じるかもしれないが、こういった混乱の中でこそテロ・犯罪行為に及ぶことが容易になっていると肝に銘じるべきであり、その脅威は健在である。今までの国際情勢に比して複雑性が増したということを念頭に、適切な情報収集を通して緊急事態をいち早く察知し、実際の行動に移す体制を整えていただければ幸いである。
参考文献
[1]ロイター通信, “イランがイスラエル攻撃、米大統領はネタニヤフ氏に自制要求へ”, https://jp.reuters.com/world/security/I57UYZ5TOFMLPGP2MBIKROKVGQ-2026-06-07/(アクセス日:2026-6-30)
[2]ロイター通信, “米・イランが和平合意、ホルムズ海峡再開へ 19日に正式署名”, https://jp.reuters.com/world/security/PUOBQOC2WJPYLLPCOIPY466ME4-2026-06-14/(アクセス日:2026-6-30)
[3]BBC, “イランがホルムズ海峡の再封鎖を発表、イスラエルによるレバノン攻撃が理由と 米軍は封鎖を否定”, BBC NEWS JAPAN, https://www.bbc.com/japanese/articles/ce3e7gvw9vzo(アクセス日:2026-6-30)
[4]BBC, “【解説】 アメリカとイランの暫定合意、ネタニヤフ氏にとって政治的悪夢に”, BBC NEWS JAPAN, https://www.bbc.com/japanese/articles/c1kyjxn8mnko(アクセス日:2026-6-30)
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