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AIとDXが導く“予測型”リスク経営
1.コーポレートガバナンス改革
問われる企業の意思決定と説明責任
近年、大企業での不祥事や事故が報道紙面を賑わせている。そして、これらの根本原因として意思決定プロセスの歪みに注目が集まっている。取締役間の力関係、同調圧力、集団浅慮、特定部門によるバイアスを放置し、過去の成功体験や暗黙知に頼った判断を続ければ、不確実性の高い環境では予期せぬリスクを増幅させることになりかねない。その結果、不測の事態を招き、企業価値を著しく毀損するおそれがある。
会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて、コーポレートガバナンス・コードが改訂された[1]。こうしたなか、経営者や取締役を支援するコーポレートセクレタリーには、意思決定の公正性、透明性、迅速性、およびアカウンタビリティがこれまで以上に求められている。
2. 「個人の適応」から「個人と組織の相互適応」へ
属人的バイアスが意思決定を歪める
取締役は株主総会で選任(会社法329条1項)され、委任関係(民法644条、会社法330条)によって、会社に対して忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務を負う。
取締役が下した経営判断によって結果的に損害が発生した場合であっても、十分な情報を収集・検討したうえで、会社の最善の利益を目指し、合理的かつ誠実に意思決定を行っていたのであれば、原則として善管注意義務などの責任は問われない。この考え方は、「経営判断の原則」と呼ばれる法理である。これは、経営者が果断な意思決定をするうえで過度な萎縮を防ぐための重要な原則だが、だからといって勘や経験だけの意思決定、アカウンタビリティに欠ける意思決定をして良いというものではない。
意思決定プロセスにもリスクマネジメントを要する
意思決定プロセスにおいて、集められた客観的な情報以上に、経験からくる勘や社内の暗黙知に頼りすぎてしまうと、重要な事実を見落とし、属人的な判断や過去の成功体験に起因するバイアスが生じやすくなる。こうした判断の偏りが積み重なることで、徐々にリスクが顕在化し、不祥事につながる蓋然性が高まる。不祥事によって企業のブランドや信頼は一瞬で失墜する一方、その回復には長い時間を要する。そのため、意思決定プロセスそのものをリスクマネジメントの対象と捉え、継続的に改善することが求められる。
リスクマネジメントのプロセスは、リスク評価、体制構築、教育、実行、モニタリングを継続的に繰り返しながら、PDCAサイクルを回していく活動である。ひとたびリスクが顕在化し、危機が発生した場合には、情報収集、対応方針の立案、意思決定、実行、検証、方針見直しという危機対応のサイクルを回すことになる。意思決定プロセスにおいても、平時からPDCAサイクルを回す仕組みを構築し、徹底させることが重要である。
3.AI時代のリスクマネジメント
高精度な判断でリスクを回避する
AIはビジネスシーンに革命をもたらし、いまもなお進化し続けている。それは不確実性に対処するリスクマネジメントの領域でも同様である。AIの普及を追い風に、経験や暗黙知に頼ってきた静的なリスクマネジメントから、データと情報を活用した動的かつ予測的なリスクマネジメントへと転換が進んでいる。
AIの活用例としては、SNS上の炎上リスクを早期に検知するための特定キーワードの出現頻度分析や感情分析、サプライチェーンにおける遅延や品質低下の兆候を検知するための過去データとの比較分析、さらには社内メールに含まれる特定のワードの増加率を収集・解析して、従業員エンゲージメントの向上に活用する取組みなどが挙げられる。現在、意思決定プロセスにAIを活用して、取締役会による意思決定の迅速性と透明性を実現させようという取組みもみられる。
AIを活用して取得・分析できるデータを「リスクの先行指標」として可視化し、経営者やリスクマネージャーがモニタリングすることも可能となる。AIが検知した「リスクの先行指標」に対し、経営者やリスクマネージャーは専門知識を活かしてその原因を分析し、問題が顕在化・深刻化する前に、倫理面にも配慮した適切な対応策を講じる。その結果をAIの学習データとしてフィードバックし、ヒューマンインザループ(AIの学習・運用プロセスに人間が介入し、フィードバックを与えることで、AIの精度、安全性、信頼性を高める機械学習手法)のアプローチをとることで、より精度の高い判断が可能になり、倫理性と公正性も担保することができる。
AI時代における人間の役割とは
AIの活用が不可欠となった時代において、意思決定やリスクマネジメントに関わる人間が果たすべき役割とは何だろうか。それは、AIやデータが示す数値の背後にある本質的な課題を見極め、既存の枠組みにとらわれない解決策を生み出す創造性である。そして、多様なステークホルダーの思いをくみ取り、合意形成する調整力を発揮することに他ならない。
4.まとめ
AIを活用した情報の収集・分析は、意思決定の公平性、透明性、迅速性を飛躍的に向上させる。これにより、取締役会は経営判断の原則に基づいた、より確かな意思決定を行うことが可能となる。さらにAIは、意思決定の支援にとどまらず、リスクマネジメントの強力な味方となり、不確実性の高い時代における企業経営のかじ取りをサポートしていく。
そして今、あらゆる企業において、AIを活用した 「予測型リスクマネジメント」への転換が求められている。
参考文献
[1]金融庁, 株式会社東京証券取引所,「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」, 令和8年7月21日(アクセス日:2027-7-23) https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html
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