2025年版中小企業白書を読み解く。リスクマネジメントは企業経営を強くするのか?(2025年6月12日掲載)

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2025年6月12日

サービス開発部

サービス開発部長

末岡 正嗣

2025年度版中小企業白書[](以下、白書)が4月に公開された。白書では、金利上昇、人件費高騰、為替変動、物価高、デジタル化、価値観の変化、国際情勢の複雑化といったビジネスを取り巻く環境が、常に変化し続け、企業経営に大きな影響を及ぼしていること、この変化の激しい時代を生き抜き、成長を続けるための企業経営のヒントが解説されている。

その企業経営において、実は、リスクマネジメントも欠かせない成長戦略ということを認識されているだろうか。リスクマネジメントの取組みは、企業経営に余裕のある企業が取り組むものと思われがちで、特に中小企業では取組みが上手く進んでいないことが多い。ただ、中小企業の皆さまが今まさに直面しているリスクに真摯に取り組むことが、結果的に企業経営の強化につながっていくことを、このコラムで紐解いていきたい。

1. 外部環境の変化に伴い迫りくるリスク!どう立ち向かう?

世界情勢は複雑さを増し、社会構造の大きな変化に伴い、社会が求める価値観も変化してきている。

特に次の3点については、社会からの期待の高まりや取引先からの要請も強まってきており、中小企業においても、新たなリスクとして、対応が迫られている。

経済安全保障に絡むサイバーセキュリティ

サプライチェーンの弱み(脆弱性)につけこみサプライチェーン全体を狙うサイバー攻撃が頻発しており、企業では堅牢な機密情報・技術情報の管理体制が重要となっている。白書では、取引先から中小企業への要求事項としてサイバーセキュリティ・技術情報管理強化が高まっていることを示している。

脱炭素化への取組み

環境負荷の低減は、もはや企業の社会的責任として認知されており、取引先からの協力要請が高まっている。企業の経営課題としては認識されているものの、独力で対応していくことが難しいという経営者の課題が白書で触れられている。

人権への配慮

取引先や従業員含めた全てのステークホルダーの人権尊重への取組みが、企業価値を左右する時代となってきており、取引先からの要請も高まっている。しかしながら、白書によると、人権方針を策定している中小企業はまだまだ少ない。

2. スケールアップへの挑戦! そこに潜む新たなリスクへの備え

売上規模を数十億円単位で「スケールアップ」する目標を掲げている企業にとっての成長の手がかりが白書で解説されているが、企業規模を拡大するに伴って新たに直面するリスクもあり、注意が必要だ。

ガバナンスリスク

白書では、中小企業が規模を拡大する際に重要と考える組織・人材戦略として、「ガバナンスの強化」が挙げられている。

企業規模が大きくなると、経営者の目が届きにくく、ガバナンス体制の不備を起因とした不祥事が起こりやすくなるため、従業員一人一人の意識付けやリスクモニタリングが重要となる。

デジタル化のリスク

デジタル化は企業成長の鍵で、白書からも、中小企業においてDXが加速していることがわかる。しかしながら、生成AIなどのデジタルツールの導入を急ぐあまりセキュリティ対策を怠ってしまうと、サイバー攻撃や情報漏洩という大きなリスクに見舞われる。加えて、用途を見誤るとサービス品質の低下や信用失墜につながる恐れもある。ここは外部の専門家の知見に頼りたいところ。

3. リスクマネジメントが企業を強くする!

前述に加え、従前から認識されているリスクであるが、気候変動によって、今まで以上に気象災害や新たな感染症など、事業継続を脅かすリスクが高まっている。さらには複合的に発生することも懸念されている。

白書に掲載されている事例のうち、筆者が印象に残ったものを以下に掲載する。

リスクマネジメントの活動によって、業務の選択・集中や生産性向上と筋肉質な企業体に成長したこと、取引先や従業員の信頼を得ることで安心できる企業に成長したこと、結果的に、企業経営の強化にもつながったという学びの多い事例だ。

「BCP策定の取組を、災害対策だけでなく平時の企業経営の強化にもつなげている企業」[2]

  • 本社を置く地域は水害リスクや雪害リスクが高く、災害対策の強化が同社の長年の課題であった。
  • BCPを整備する上で、災害時の復旧には自社の事業に優先順位を付け、何を切り捨てるかの判断が必要という着想を得た。
  • 有事のためのBCPの策定に加えて、平時の事業継続も見据えたBCPも策定した。
  • BCP策定など一連の取組は、顧客からの信頼獲得につながったほか、日頃から代替となる仕入先・外注先の検討や製造工程の見直しを進めたことで、平時でもコスト削減や生産効率向上を実現した。
  • BCP関連の取組は従業員の心理的安全性の担保につながり、人材確保の一助にもなっている。

4. 未来を切り開く! 経営者に求められる役割

本コラムで取り上げたリスクは、「サイバーセキュリティ」、「脱炭素化」、「人権問題」、「ガバナンス」、「デジタル化」、「気象災害」だが、時代の変化に伴い企業のリスクマネジメントで取り扱うテーマも変化し続けている。

言わずもがな、中小企業における企業経営やリスクマネジメントの成否は、経営者の手腕にかかっている。経営者自らがリスキリングで知識やスキルを磨き続けること、リスクを正しく認識し、適切な対策を講じることの重要性が白書でも触れられている。リスクの感度を高めていくことは、将来のビジネスシーンを先読みすることにもつながる。

また、そのリスク感度によって会社をリードし、全ての従業員が能動的にリスクに対応できるような意識改革を促していくことも重要だ。そしてその結果として、企業経営が強化されていく。

「企業経営のためのリスクマネジメント」、中小企業の皆さま含め、全ての企業の方にご理解いただければ幸いです。

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[1] 中小企業庁, 2025年版「中小企業白書」

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho.html (アクセス日:2025-05-30)

[2] 出典:中小企業庁, 2025年版「中小企業白書 全体版」, P65 , 第9章 「事例 1-9-13 アイ・エム・マムロ株式会社」

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf (アクセス日:2025-05-30)

 

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