高市総理誕生を機に女性活躍推進の現状と方向性を考える

高市総理誕生を機に女性活躍推進の現状と方向性を考える

2025(令和7)年1021日、自由民主党の高市早苗総裁が、首相に就任した。女性が首相に就任したのは、日本の憲政史上初めてのことである。これを機会に、政治・経済面における日本の女性活躍推進の現状と、それを支える制度や方策等の方向性について振り返りたい。日本は、女性の政治および経済参画が、諸外国に比べて遅れをとっているとしばしば指摘されてきた。世界経済フォーラムの2025年のジェンダーギャップ指数によると、総合順位は148か国中118位である。政治参画では148か国中125位の評価であり、経済参画では、112位である[1]

1.政治分野における女性活躍推進

女性の政治参画をより高めるためには、制度や方策等の支えも重要である。2025年のジェンダーギャップ指数上位10か国をみると、9か国は、何らかのポジティブ・アクション[2]、具体的にはクオータ制(議員数における男女の均衡を目的とした措置)を実施している[3]。例えばジェンダーギャップ指数総合順位1位を2009年以降継続するアイスランドでは、政党が、候補者の性別比率に係る自主目標を設定している。同3位のノルウェーでは、地方議会選挙の候補者は、少なくとも40%がどちらかの性であることが法的義務である。

2. 経済分野における女性活躍推進

経済参画においても、制度や方策等の影響は大きい。日本の課題としてよく指摘される指標に、「管理的職業従事者の男女比」がある。日本のデータを見ると、民間企業の管理職相当の女性割合(2024年度)は、課長職では15.9%であり、女性役員の比率(2024年度、全上場企業)では12.5%と、上位の役職ほど割合が低くなる傾向がみられる。

女性管理職・役員の割合(2024年度 )

 ・民間企業の課長職:15.9

 ・全上場企業の役員:12.5

また、2022年度のデータになるが、日本(全上場企業)とOECD諸国の女性役職員比率を比較すると、日本は9.1%であり、OECD諸国(日本を除く)の平均は38.8%とギャップがみられる[4]

女性役職員比率の国際比較(OECD諸国とのギャップ)

・日本(全上場企業):9.1%

・OECD諸国(日本を除く平均):38.8%

例えばEUは、ジェンダー平等の実現を目指し、意思決定の場や幹部ポストへの女性の登用を促進するため、2022年11月、域内の上場企業に対し、2026年までに取締役会の少なくとも40%を女性にするよう義務付ける指令を制定した[5]。EUほどの女性役員比率のクオータ制ではなくとも、企業に対して、職階層別男女比率の報告義務[6]や、投資家等へのコンプライ・オア・エクスプレイン方式による開示義務等[7]を課し、ジェンダー平等への取組みを求める国もある。

3. 日本における現状と課題、そして今後の方向性

日本も、候補者の性別比率について自主目標を設定している政党がある。企業も、女性活躍推進法に従い、常時雇用する労働者が101人以上ならば、女性の活躍に関する情報を公表する。それでも諸外国と比較して、大きなジェンダーギャップが見受けられる。そもそも男女の比率は、ほぼ1対1であるのに、一定の条件のもとで、その比率が偏るならば、何らかの構造的な差別が潜んでいる恐れがあり、それを克服する制度や方策等が不十分であることが懸念される。

政治参画面では、政党の自主的な候補者目標のみに拠らず、議席数や候補者の男女別割当に、より強制力を働かせる制度の導入を検討する時期なのではないか。公正が重視される政治の場であれば、意思決定に多様な意見や利害を反映させるためにも、検討が望まれる課題である。

経済参画面では、企業の取組みへの期待が大きい。例えば役職員向けにアンコンシャスバイアスに係る研修を定期的に実施する。メンター・メンティー制度を導入して女性管理職候補を育てる。産休・育休取得者がいる職場の負担の軽減につながる業務プロセス効率化や手当支給策を実施する等も考えられる。個人の人生観において選択のひとつである出産や育児は、キャリア形成等の不利やペナルティではないという意識啓発と環境整備が望まれる。

4.まとめ

こうした制度整備や施策の実施等に係る真摯な取組みが、女性活躍の推進を支えるのであって、何の取組みもせずに達成されるものではない。また、これらは女性を「優遇」しようとするものではなく、男女がより「公平」な社会であろうとする取組みである。女性が活躍しやすい社会は、男性も活躍しやすい社会である。より多くの方々が活躍できるように、制度の在り方や、施策の進め方について、引き続き対話を重ねていくことが望まれる。

女性活躍推進への取組みに関するご相談

参考文献

[1] https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html (アクセス日:2025-11-17)

[2] 社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のこと。https://www.gender.go.jp/policy/positive_act/index.html (アクセス日:2025-11-10)

[3] 2025年のジェンダーギャップ指数上位10か国は、順にアイスランド、フィンランド、ノルウェー、英国、ニュージーランド、スウェーデン、モルドバ、ナミビア、ドイツ、アイルランドである(参考:World Economic Report「Global Gender Gap Report 2025」 https://reports.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2025.pdf (アクセス日:2025-11-18)) 。

フィンランドを除いた9か国には、法律によって国または地方議会にて議席や候補者を性別によって割り当てる制度や、自発的に性別による割合を設定している政党がある(参考:IDEA, Gender Quotas Database, https://www.idea.int/data-tools/data/gender-quotas-database/countries (アクセス日:2025-11-17))。 

[4]内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」(令和7年10月)9頁https://www.gender.go.jp/research/pdf/joseikatsuyaku_kadai.pdf (アクセス日:2025‐11‐13)
[5] 田村祐子, 「【EU】上場企業取締役のジェンダーバランスを改善する指令の制定」立法情報 https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/12864405(アクセス日:2025‐11‐17)

[6]例えばオーストラリアでは、2012 年に職場におけるジェンダー平等法が制定され、100人以上の企業に職階層別男女比率の報告義務が課せられた。内海和美, 「【オーストラリア】2025年職場におけるジェンダー平等(ジェンダー平等目標の設定)改正法」立法情報  https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/14455483 (アクセス日:2025‐11‐17)

[7]例えばカナダでは、カナダ証券管理者(CSA)が、トロント証券取引所(TSX)に上場している企業に対し、取締役会、及び執行役員レベルで性別多様性ポリシーを導入したかどうかを毎年開示するよう要求している。(参考:内閣府男女共同参画局「諸外国の経済分野における女性比率の向上に係るクオータ制等の制度・施策等に関する調査」(令和3年度)カナダhttps://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/female_ratio_07.pdf (アクセス日:2025-11-18))

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