「大人の発達障害」の可能性がある部下への指導 ~管理職は「行動」できる働きかけを~

パーパス/人的資本

2023年4月12日

リスクマネジメント事業本部
医療・介護コンサルティング部サービスグループ
兼 コーポレート・リスクコンサルティング部GRC推進グループ
上席コンサルタント 米国公認会計士

宮本 薫

42日は、国連が定める「世界自閉症啓発デー」であり、毎年42日から8日は「発達障害啓発週間」であった。「発達障害」という言葉を聞く機会は増えてきたが、その特徴等をご存知だろうか[1]。発達障害とは、生まれつきみられる脳機能の発達の違いに関係する特性であり、物事に対して独自な認知、解釈、行動等をすることがあると言われる[2]。文部科学省による最近の調査では、発達障害の可能性がある小中学生の割合が8.8%、高校生が2.2%とのことである[3]

 

職場にも、少なくとも高校生並みの割合で、発達障害の可能性がある社員がいると推察される。発達障害者の中には、診断を受けていても職場に自らの障害を伝えていない社員もいるだろう。また、そもそも本人が自らの特性等に気づかず、診察を受けていないことも考えられる。職場にて多様性(ダイバーシティ)の尊重がますます重要視されるなか、管理職には、「目に見えない障害」ともいわれる発達障害の可能性がある社員も受容した(インクルージョン)マネジメントが期待される。

 

発達障害の可能性がある社員に見られる職場での行動を挙げると、例えば「急ぎではないけど、早めに頼むね」といった業務依頼に対して、「では一両日中にやっておこう」などと察することなく、「急ぎではない」という言葉だけが記憶に残り、全く着手しなかったり、そもそも業務依頼自体を忘れたりすることがある。

 

こうした「うっかり」は、職場でよく散見される。ただ、発達障害の可能性がある社員は、「うっかり」では済まされないほどの頻度で、業務上の失敗やコミュニケーションギャップを繰り返す。そのため、管理者や同僚から、「やる気が無い」「態度が悪い」等の評価を受けたり、ひどい場合は、職場のいじめ(ハラスメント)にあったり、自己嫌悪からメンタルヘルスの悪化につながることがある。

 

発達障害の可能性がある社員は、独自な解釈をしたり、目の前のことに集中しすぎて他のことに手が回らなかったり、業務の遂行中に急に大きな不安を感じたりする傾向が強い。管理職には、彼らが「行動」しやすく、よりよい結果に到達できるように働きかけることが望まれる。具体的には、管理職による「行動」の指示、結果の「確認」、及び承認と次の行動指示に係る「フィードバック」である。

 

例えば管理職が、「3日後までに、お客様向けの資料を作成してほしい。ついては、今日の17時までに必要になりそうな資料を集めて報告してくれる?」などと、短いPDCAを用意し、目標を定めて具体的な「行動」を指示し、途中結果を「確認」し、評価と次の具体的な行動を「フィードバック」する。管理職と発達障害の可能性がある社員との具体的かつ早めのコミュニケーションが、心理的な安全の確保と効果的・効率的な業務遂行につながっていく。業務を依頼したら最終成果物が提出されるまで放置しっぱなしでは、望まれる成果にたどり着きにくい。

 

発達障害の可能性がある社員に焦点を当てて、管理職のマネジメントにふれているが、そもそも「(部下に)『やる気』が無い、だから何度言っても分からない、出来ない」などと、業務の遅れ等の要因を部下の資質等に帰するだけでは、問題が改善されない。管理職が具体的な「行動」を指示し、適切な「確認」と「フィードバック」が繰り返されている職場は、発達障害の可能性がある社員のみではなく、他の社員にとっても行動しやすく、かつ意味の取り違えや業務の手戻りが発生しにくく、業務効率化を図ることもできる。その意味で、管理職の役割は重要だが、こうした職場は、管理職の能力や「やる気」のみに頼っては実現できない。多様性を尊重したマネジメントの重要性が指摘されるなかで、企業側も、社員等に対する発達障害等に関する理解促進、管理的立場にあるリーダー職へのマネジメント教育や、多様な人材が働きやすい制度・オフィス環境づくりにより努めることが望まれる。

 


[1] 発達障害は、「神経発達症」と呼び方が変わってきているが、本稿では、一般的に呼ばれている「発達障害」としている。

[2] 政府広報オンラインhttps://www.gov-online.go.jp/useful/article/202302/1.html(アクセス日:2023-4-4

[3] 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4)について」

  https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm (アクセス日:2023-4-3

宮本 薫

リスクマネジメント事業本部
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上席コンサルタント 米国公認会計士

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