患者の不安に寄り添うということ ― 医療者に求められる“接遇”(2025年6月3日掲載)

医療・介護 NEW

2025年6月3日

医療・介護コンサルティング部 サービスグループ

上級コンサルタント

能村 仁美

一般的に「接遇」と聞くと、敬語や身だしなみ、マナーなどの飲食店や商業施設などのサービス業で受ける礼儀正しさや親切な対応を思い浮かべるかもしれない。

医療機関においても、接遇が心理的な支えとなり、患者の不安を和らげ、信頼を築くための重要な役割を果たしている。

医療の現場では、「病気」や「けが」を治療することに目が向きがちだが、患者が抱える“不安”に対して、どれほどの配慮がなされているだろうか。

今回は、「接遇」という観点から、患者の不安に寄り添う医療者の向き合い方について考える。

1.医療現場における患者の不安

患者が医療機関を受診する理由は様々だが、厚生労働省の「令和5(2023)年 受療行動調査[]」によると、自覚症状がない患者が受診した理由として「健康診断(人間ドックを含む)で指摘された」というものが一番多く、45.2%に達している。このことから、検査結果や予期せぬ疾患に対する不安を抱えて受診している患者の姿が推察される。

また、令和5(2023)年5月8日に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症[2]になってから2年が経過したが、入院患者の面会を「予約制」「家族のみ2名まで」「1回15分」「1週間に1回」など、入院患者の状況、医療機関の特性で面会制限を緩和することが難しいことがある。その際、面会制限があることは入院患者やその家族にとって、高度で複雑な医療を受けることへの不安や孤独感に繋がっているといえる。

2.接遇が持つ心理的な影響

医療現場における接遇は、患者やその家族の不安や緊張を和らげ、安心感を提供する重要な役割を担っている。実際に、「病気そのものより、検査結果を待つ時間が一番つらかった。でも、看護師さんが声をかけてくれて、ほっとした」といった患者の声に見られるように、医療者の一言や気遣いが、患者の精神的負担を軽減し、心理的な支えになることもある。

また、外来患者の満足度調査(図1)によると、診察までの待ち時間(25.5%)、診察時間(6.9%)、医師との対話(6.1%)といった項目に対する不満が多く挙げられている。

入院患者についても、食事の内容(14.7%)、病室・浴室・トイレの環境(8.0%)、医師との対話(7.2%)に不満を感じているという結果(図2)が出ている。これらの不満は、医療機関の特性上、すぐには改善が難しい部分もあるが、医療者一人ひとりの接遇によって、患者の不安を軽減したり、より良い印象を与えたりすることは十分可能である。

図1 外来受診患者の項目別満足度

令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況[1]を基に弊社でグラフを作成

図2 入院患者の項目別満足度

令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況[1]を基に弊社でグラフを作成

3.「接遇」とは、スキルではなく“向き合い方”

医療における接遇の本質とは、“患者とどう向き合うか”“どう関わるか”にあると考える。たとえば診察を受ける際、長時間待たされた上、診察室に入ってみれば、医師が患者の顔を見ずにモニターを見続けている状況を想像してみよう。患者にとって、医師が目を合わせずに話をすることは、不安や孤独感を感じる可能性がある。

視線、表情、うなずきといった非言語的なコミュニケーションも、接遇を構成する重要な要素である。医師が患者の目を見て、「お待たせしました」と一言声をかけるだけで、患者は「自分にちゃんと向き合ってくれている」という気持ちを抱くことができる。言葉以外の、目元を柔らかくしたアイコンタクトや、話しを聞いていることを示す頷きなどを通じて安心感や信頼関係の構築にも繋がるのである。

・初診で緊張している患者に「私が診察を担当します。〇〇です。」と笑顔で声をかける
・検査前の説明後に「説明のなかで、気になることはありませんか?」と一言添える
・忙しい中でも相手と目を合わせ、「お待たせして申し訳ありません」と伝える

こうした医療者の行動が、患者にとって、「この不安は一人で抱えなくてよい」と感じられ、患者自身が検査や治療に向き合う力になり、ひいては「この病院に来てよかった」と病院全体の好印象として感じられるものになるだろう。

4.「伝わること」に意味がある

接遇は、医療者側がどれだけ丁寧に対応しているつもりでも、相手に“伝わっていなければ” 接遇が出来ていないと思われてしまう。

接遇は決してマニュアルに従って「こうやりなさい」と示された表面的な動作にとどまるものではない。「不安をどうしたら和らげられるか」「どんな言葉が安心感に繋がるだろうか」といった、患者に対する思いやりや気配り、そして不安を和らげるための「姿勢」が本質である。 

どれほど形式的に整った所作であっても、言葉に棘があれば、その効果は薄れてしまう。反対に、多少たどたどしい言葉遣いであっても、思いやりが伝われば、患者との信頼関係に繋がり、安心感を抱くきっかけとなる。

「きちんとやっている」だけでなく、「自分の接遇が、相手にどう届いているか」「どのように感じているのか」を振り返ることが、患者の不安に寄り添う第一歩となるのではないだろうか。

5.おわりに

医療現場は常に多忙で、限られた時間の中で多くの業務に対応する必要がある。

患者が「またこの病院に診てもらいたい」と思えるかどうかは、直接相対する医師の診療内容だけでなく、様々な医療者の“関わりの質”によっても大きく左右される。

患者に「この人がいてくれて良かった」と感じさせる医療現場での「接遇」は一般的に言われる接客スキルではなく、医療者一人ひとりの姿勢が患者との信頼関係を築くうえで、欠かすことのできない要素であるといえる。

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研修メニュー:医療者が押さえておきたい接遇のポイント

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●[1]厚生労働省 令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況(アクセス日:2025-05-20)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jyuryo/23/dl/kakuteisu-gaikyo2023.pdf

 

●新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について

[2]厚生労働省 令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況(アクセス日:2025-05-20)

https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html

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