米国大手メディア社長の辞任はセクハラ? 職場恋愛と企業の倫理規範

コンプライアンス

2022年3月10日

リスクマネジメント事業本部
医療・介護コンサルティング部サービスグループ
兼 コーポレート・リスクコンサルティング部GRC推進グループ

上席コンサルタント 米国公認会計士

宮本 薫

2022年2月、米国大手メディア社長が辞任した。報道によると、20年以上仕事上で付き合いがあった幹部と、この数年で恋愛関係になったが、その事実を企業側に報告していなかったことが原因であるという[1]

恋愛関係がからんだ本件は、一見すると、セクシャルハラスメントを想起するかもしれない。しかし、この辞任は、セクシャルハラスメントではなく、企業の倫理規範や行動規範等の規定、基準に違反したことにある。

 

米国企業の中には、倫理規範等の指針や基準等のひとつとして、職場の恋愛関係に係る”Dating Policy(交際方針、恋愛方針)”をもつ企業がある。”Dating Policy”は、官民を問わず見受けられ、中でも上司(上位職)と部下(下位職)との恋愛を明示的に禁止しているものがある[2]

特に上司と部下の恋愛関係を禁止する主な目的は、大きく2つある。第1に、利益相反を防ぐためである。上司は、部下の昇進や昇給等、人事評価に影響を与える。上司が、恋愛関係にある部下を「えこひいき」する懸念がある。特に、その上司が、恋愛関係にある部下に「えこひいき」をしたと周囲から思われることは、不当な評価がなされたと思う他の部下等が、上司と企業を訴えるリスクがある。たとえ訴訟に至らなくとも、「えこひいき」が存在すると多くの従業員が感じる職場では、生産性が下がってしまう。

しかしながら、恋愛はそもそも自由である。そのため、これらの指針等は、もし恋愛関係になった場合、人事部やコンプライアンス部に報告することを当事者に求めている。これによって、企業側は、人事異動等により利益相反に係るリスクへの対処が可能になる。また、社内の指針や基準等に従って恋愛関係の報告があれば、少なくとも企業側は、公平な評価がされているのか注視できる。

第2に、ハラスメントを防ぐためである。恋愛関係になった上司と部下の2人が、その関係を終えるときに、感情的なもつれがあると、両方または一方にとって不快な言動等が続く場合がある。特に、上司と部下の恋愛には、当初から「優越的な関係」を前提に始まっており、感情的なもつれは、上司の権力、権限を背景に強いられた関係だった等とハラスメント事案になるリスクがある。

そのため、もし恋愛関係になった場合は、人事部等に報告してもらうことで、自由な恋愛から始まった合意の上のものであることを担保し、ハラスメント事案への変化に対して抑制効果が期待される。

勘違いしやすい点であるが、“Dating Policy”は、セクシャルハラスメント対応方針と位置づけが違う。セクシャルハラスメント対応方針は、「本人の意に反する(合意のない)性的な言動」を禁止するものである[3]。一方、“Dating Policy”は、「合意ある恋愛関係」について、当該企業に勤務する者として、また、プロフェッショナルとして、責任ある行動を倫理規範等の中で求めるものである。

 

米国大手メディア社長の辞任後、恋愛関係にあった幹部も、社内調査の結果、その関係を企業側に報告していなかったことから、同社の規定、基準違反等を指摘され辞任した[4]。これらは、企業トップによる倫理規範等のコンプライアンス違反の責任をとったものである。

日本企業の中にも、職場の恋愛禁止を就業規則に規定しているところもあるが、恋愛関係になった当事者を実際に罰している例をあまり耳にしない。日本の法的環境では、その恋愛によって、企業側に著しい損害等がない限り罰則が無効とされる可能性が高いことも、その理由のひとつと推察される。

日本企業、特に多様な国籍等を持つ従業員が勤務している企業、外国人株主が多い企業や、これから欧米等に進出しようとする企業ならば、倫理規範等をはじめ一旦定めた規定、基準等を厳密に適用することが望まれる。ルールとして規定したことを運用しないならば、ステークホルダーより企業としての遵法姿勢を疑われかねない。

もしかすると日本企業では、職場の恋愛関係に罰則を適用したり、人事部等に報告を求めたりすることに躊躇するかもしれない。それならば、職場における恋愛も、プロフェッショナルとして役職員に律してほしい課題のひとつとして、倫理規範の中に位置づけ、教育研修等を通じて強く意識啓発に努めることも一案である。

 


[1]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN02ES50S2A200C2000000/ (アクセス日:2022-2-24

[2] 例えば米国の国立衛生研究所(National Institute of Health)の”NIH Policy Statement: Personal Relationship in the Workplace” では、どちらかが実際に権限または権限があると感じられるような不平等な関係性にある両者(individuals in inherently unequal positions)の恋愛は不適切(inappropriate)であり、思いとどまるように(strongly discouraged)言及している。

[3] 参考として、米国雇用機会均等委員会(U.S. Equal Employment Opportunity Commission)のセクシャルハラスメントの定義は、unwelcome sexual advances, requests for sexual favors, and other verbal or physical harassment of a sexual nature (アクセス日:2022-2-25https://www.eeoc.gov/sexual-harassment

[4] https://www.cnn.co.jp/showbiz/35183609.html (アクセス日:2022-2-28)

宮本 薫

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