噴火への備え 首都圏における降灰下での事業継続

噴火への備え 首都圏における降灰下での事業継続

1.富士山噴火による降灰に対する政府検討と対策の必要性

富士山噴火による広域降灰への対策については、2025年3月の広域降灰対策ガイドラインの公表、2026年3月の広域降灰対策具体化協議会(第1回)の開催など、行政による対応の検討が進められている。企業としては、ガイドラインを参照しても具体的な対応方針が定まっていない段階で自社のBCPに組み込もうにも悩ましいと感じている担当者も多いのではないだろうか。


しかし、富士山は過去5600年に約180回噴火している。その頻度にはばらつきがあるものの、単純に平均すると30年に1回の計算となる。1707年の宝永噴火以降、300年以上沈黙を保っていることから、まさに「いつ起こってもおかしくない」災害であり、政府の検討が終わるのを待つのではなく、暫定でも自社の方針を定めておき備えることが重要である。本コラムでは富士山噴火や降灰の特徴を紹介するとともに、架空の企業3社(A・B・C)をモデルに災害発生時の対応方針を検討する。


なお、当社では2024年に「噴火に伴う降灰の事業への影響と対策」として報告書を執筆し、富士山噴火の歴史、火山灰の特徴と想定される被害、企業が取るべき対応をまとめている。富士山噴火降灰に関する基本的な情報は、本レポートを参照されたい。


損保ジャパンRMレポート 富士山噴火に伴う降灰の事業への影響と対策

2.富士山噴火と降灰に関する情報

2-1.噴火の特徴と噴火警戒レベル

気象庁が発表する火山に関する情報として噴火警戒レベルが挙げられる。噴火警戒レベルとは「火山活動の状況に応じて、「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を、5段階に区分して発表する指標」である。


注意すべきは、噴火警戒レベルは防災気象情報とは性質が異なるという点である。防災気象情報では突発的な大雨等を除いて時間が経つごとに警戒レベルが上昇していくのに対して、噴火警戒レベルは噴火によって想定される影響範囲によるレベル分けを行っている (レベル3は「居住地の近くまで重大な影響を及ぼす噴火」を、レベル4、5は「居住地に重大な影響を及ぼす噴火」を対象とした指標である。)。 噴火の規模や前兆となる現象によっては、いきなり噴火警戒レベル4、5が発表されるケースや、噴火警戒レベルが5に達しなくても噴火するおそれがあることは認識しておく必要がある。


また、噴火までの時間も火山によってさまざまで、警戒レベルの上昇から1時間後に噴火することもあれば、1週間経っても噴火が発生しないこともありえる。噴火警戒レベルごとの行動をまとめておくことは有効だが、レベルの上昇時期を事前に予測することは難しく、水害対応のように台風が最接近する○時間前に〇〇をする、という対策の立て方は現実的ではない。


さらに、噴火は一度発生したら終わりではない。火山活動が沈静化するまで、断続的に噴火が続くことが想定される。江戸時代の宝永噴火では実際に2週間程度噴火が継続したと記録されている。このように影響が長期化する点も噴火の特徴である。


事業継続対応を検討するにあたっても、噴火が発生した後もすぐには状況が見通せず、復旧活動に取りかかれない懸念がある、という点を認識しておく必要がある。

2-2.火山灰警報(仮称)

首都圏における降灰対策を検討する場合、噴火前の情報としての警戒レベルだけでなく、噴火後の降灰量の予報にも注目する必要がある。噴火は、実際に発生するまでどの程度の被害が生じ、首都圏にどのような影響が及ぶかが分からない。噴火後にどの地域にどの程度の降灰があるかを示す情報として、現在は「降灰予報(図表1)」が運用されている。降灰予報は鹿児島では日常的に用いられており、降灰量によって多量(1mm以上)、やや多量(0.1mm1mm)、少量(0.1mm未満)の3段階で降灰量を予測する。


しかし、この予報では富士山噴火による大規模な降灰で想定される降灰量や、ガイドラインで示されているステージ(図表2)に対応しきれない。そのため、気象庁では2025年4月に「広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(報告書)」を公表し、現在は「火山灰警報(仮称)(図表3)」の導入に向けた検討が進められている。
これは、広域降灰対策ガイドラインにおいてステージの区分に利用されている3cm、30cmを基準値とし、累積火山灰量に応じて「注意報」「警報」「一段強い呼びかけ」を発表する仕組みである。

図表1 現在の降灰予報の基準

名称 厚さ・キーワード 路面への影響 視界の状況
多量 1mm以上
【外出を控える】
完全に覆われる 視界不良となる
やや多量 0.1mm<厚さ<1mm
【注意】
白線が見えにくい 明らかに降っている
少量 0.1mm 未満 うっすら積もる 降っているのがようやくわかる

気象庁.降灰予報の説明.国土交通省気象庁. をもとに当社作成

図表2 首都圏における広域降灰対策ガイドラインのステージ区分

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出典:内閣府, 首都圏における広域降灰対策ガイドライン「ステージに応じた被害の様相と

広域降灰対策の基本的な考え方」より抜粋

図表3 火山灰警報(仮称)と対応する累積火山灰量

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出典:気象庁. 広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方

(報告書).p.25 より抜粋

今後検討が進み、気象庁から噴火・火山灰に関する情報の更新、新規作成に関する発表があることが予想される。噴火前後にどのような情報や警報が発表され、それがどのような意味を持つのかを正しく認識しておくことは、富士山噴火を想定したBCPを策定するにあたっても極めて重要である。

3.富士山噴火による降灰を想定したBCP

対策方針を整理する

では、企業は降灰時の事業継続のためにBCPで何を定め、どのように備える必要があるだろうか。

富士山噴火は先述のとおり過去5600年で約180回噴火したとされているが、そのうち96%は小・中規模の噴火である。富士山噴火の降灰による空調機器への影響を調査した研究では、「富士山噴火のような大量の降灰をもたらす災害は、いわば低頻度の大災害である。そのため、建物耐震化のような常時的な備えを、想定規模の噴火に対して広く都市レベルで行うことは容易ではない」 と述べられている。企業としても、富士山噴火だけを考慮して設備投資を行うのは現実的ではなく、まずは運用面での対応を整理していくことが現実的な対策となるだろう。

ここで、首都圏に拠点のある架空の企業A社、B社、C社をモデルケースとして、降灰に対する対策として考えられる方針を整理する。
各社の特徴は下記の通りである。

図表4 モデルケースとなる3社の特徴

社名 特徴
A 社 首都圏の他に関西地方に支社がある。業務内容はデスクワークが中心。在宅勤務も日頃から実施している。

B 社

支社はなく、都内のオフィスに全社員が出勤する。業務内容はデスクワークが中心。セキュリティの都合上、在宅勤務での業務は難しい。
C 社 製造業。首都圏に2工場、関西に1工場を構えるが、いずれも製造する製品が異なる。一部の部署を除き、在宅勤務は実施していない。

出社している従業員への対応を検討する

まず、3社とも噴火の危険が高まっているとわかった段階で出社している従業員への対応を検討する必要がある。


実際に噴火が発生した場合、ライフラインに影響が生じて通常通りの生活が送れなくなる一方で、30cm以下の降灰量の場合は各自自宅で生活を続けることが求められている(図表2)。では、出社している社員はいつ自宅に戻るのが適切だろうか。噴火発生から降灰の開始までは、風向きにもよるが数時間程度の猶予があることが想定される一方で、噴火発生後の混乱による混雑や、公共交通機関の計画運休が行われることも考えられる。


業務上可能な場合は早期の在宅勤務や自宅待機への切り替えを行い、従業員の安全を確保する対応が望ましい。判断のトリガーになりうる情報としては噴火警戒レベルがあるが、先述の通り、順を追ってレベルが上昇しない可能性があること、噴火警戒レベルが上昇したまま噴火せず、数週間が経過する可能性もあることには留意が必要である。


上記の対応が難しく、噴火の直前まで社内で勤務を続ける場合には、帰宅を認めるか、会社に止まるかの判断が求められる。自宅が遠方の従業員は、移動中に降灰が始まると帰宅困難者となる危険があるため、噴火後に無理な移動をさせないことが重要になる。地震発生時の対応として既にマニュアルが整備されていれば一定程度の応用は可能だが、降灰がいつまで続くかわからず、3日以上の滞留が必要になる事態も考慮しておかなければならない。停電が復旧したとしても降灰が続けば空調を利用できないおそれもあるため、暑熱対策、寒冷対策も重要である。

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[1] 大塚清敏,諏訪仁,久保智弘,宮城洋介.富士山噴火への建築設備の視点からの備え.空気調和・衛生工学.2026年,vol.100,no.3.p.21-28.

事業の継続方法を検討する

続いて、事業の継続方法について検討する。


 

―A社の場合

A社は代替拠点となる支社があることから、代替拠点での事業継続を行うことが有効である。降灰の対象範囲外に拠点がある場合は、重要業務を代替することで事業を継続することができる。既に代替拠点を活用したBCPが策定されている場合は、そこに富士山噴火特有の対応を追記することで対応は可能だろう。新たに検討が必要な要素の例として、代替拠点への業務切り替えのタイミングが挙げられる。切り替えに時間や特別な作業を要する業務がなければ富士山の噴火をトリガーとして切り替えるルール設定が考えられる。


 

―B社の場合
B社では、代替拠点での業務継続は見込めない。対応方針は大きく2つである。ひとつは少数の対応者が拠点に残り、対応を続けることである。この場合、自宅が近い従業員や責任者のみが拠点に留まり最低限の対応を行うことが想定される。必要な事前準備としては、長期の拠点滞在を想定した備蓄品の追加が考えられる。ただし、テナントとしてオフィスビルに入居している場合、警戒レベルの上昇に伴ってビル側が館内を閉鎖する可能性もあるため、事前確認が必須である。また、空調の作動しない環境下での作業が予想されるため、従業員の体調管理には十分に注意する必要がある。


もうひとつは非常事態として事業を一定期間停止することである。宝永噴火規模の富士山噴火が発生した場合、直接被災していない地域も含め広範囲に影響が及ぶため、非常事態であることは日本全国に伝わる。事業が継続できるに越したことはないが、灰の吸入による健康被害や熱中症などのリスクを負って従業員に対応させるよりも、顧客へ丁寧な説明を行い、事業を一時的に停止する方が企業としての責任を果たす姿であるとも考えられる。


ここでポイントとなるのは、事前に準備と顧客への告知ができているかどうかである。噴火の前兆があった場合、どのような事態になったら事業が停止する可能性があるのか、停止した場合どのような影響があるのか、いつまでの停止を見込んでいて、再開する場合はどのように通知するのかを顧客に対してあらかじめ説明しておくことで、事前の準備と対策に基づいた対応であると示すことができる。平時より顧客とコミュニケーションをとっておくことが、影響を最小限に抑える鍵となるだろう。


なお、別の手段として経営陣、役員が一時的に降灰の範囲外に移動し、最低限の意思決定ができる体制を整えるという手段をとっている企業もある。一定の警戒レベルに達した段階であらかじめ決めておいた建物に移動するというものである。この時、滞在場所はオフィスと同等の環境である必要はなく、最低限の宿泊、会議、作業ができれば良い。このような環境が準備でき、関係者の承諾を得られる場合は検討に値する一案だろう。


 

―C社の場合
C社の対応も基本的にはB社と同様だが、工場特有の対応として設備を火山灰から保全する必要がある点が挙げられる。屋外設備を火山灰から守るための養生、吸気による屋内の汚染、設備への悪影響を抑えるための空調停止や開口部の閉鎖、目張り等の対応が求められる。事前に対応を開始するタイミングと担当者、実施方法をまとめてマニュアル化しておくことで当日迷わずに対応が可能となる。


また、降灰が落ち着き工場の稼働を再開する際には、火山灰の清掃を行う必要がある。火山灰の処理については国のワーキンググループでも検討段階であり、現時点で明確な方針は決まっていない。自治体においても地域防災計画等で対応が検討されているところではあるが、敷地内の灰を集める作業については自分たちで実施することになる可能性が高い。清掃作業に必要な軍手、ゴーグル、マスクなどは備蓄として追加しておくと良いだろう。


 

―総括


ここまで、富士山噴火と火山灰の特徴を確認し、企業における対応方針について整理してきた。今回はモデルケースとして3つの企業を想定したが、各企業の特徴、規模や事業内容、在宅勤務の活用可否によって最適な対応・対策は異なる。今回挙げたケースをそのまま自社に当てはめるのではなく、ひとつの事例として独自の行動計画を組み立ててほしい。


B社の事例で述べた通り、対策を行った上でも対応できない規模の災害であれば、計画的に事業を停止することも一つの選択肢である。同じ事業停止でも、入念に準備し、顧客にも伝達のうえ計画的に停止する企業と、対応が用意できておらず突発的に停止する企業の印象は異なる。自社のリソースを考慮の上、必要な対策を設計していくことが重要である。


また、今回は自社の対応に焦点を当てたが、実際の降灰時にはサプライチェーンにも甚大な影響が生じると考えられる。富士山噴火降灰に関し自社の対策を検討する場合には、サプライチェーンの状況・被災による影響にも目を向けておくことが不可欠である。


SOMPOリスクマネジメントでは、富士山噴火による降灰を想定した訓練の実施やセミナーの開催など、皆様の事前対策のご支援を幅広く行っています。お客様のお困りごとに応じてコンサルティング内容のご提案を行なっておりますので、BCP、BCM活動でお困りの方はぜひ一度お声がけください。


 

参考文献

1) 内閣府(防災担当).首都圏における広域降灰対策ガイドライン  https://www.bousai.go.jp/kazan/shiryo/pdf/honbun.pdf ,(2026-08-20)

2)首都圏における広域降灰対策具体化協議会(第1回).当面の協議事項と今後の協議会の進め方  https://www.bousai.go.jp/kazan/kouhaikyougikai/kyougikai1kai/pdf/shiryo6.pdf ,(2026-08-20)

3) 首都圏における広域降灰対策具体化協議会(第1回).これまでの東京都の降灰対策の検討状況  https://www.bousai.go.jp/kazan/kouhaikyougikai/kyougikai1kai/pdf/shiryo5.pdf ,(2026-08-20)

4) 小山真人.“富士山での突発的噴火の可能性と登山者対策-地域の火山防災力をいかに高めるか”.富士山噴火に備える.『科学』編集部編.岩波書店,2023,p.77-83.

5) 地引泰人.富士山噴火と防災情報.科学.2022,Vol.92,No.7,p.659-661.

6) 内閣府政策統括官(防災担当)付,参事官(調査・企画担当)付.大規模噴火時の広域降灰対策について. INDUST.2026,7月号,p.10-13.

7) 気象庁地震火山部.火山灰予測情報改善の取り組み. INDUST.2026,7月号,p.14-17.

8) 気象庁. 噴火警戒レベルの説明.国土交通省気象庁  https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kazan/level_toha/level_toha.html ,(2026-08-20)

9) 大塚清敏,諏訪仁,久保智弘,宮城洋介.富士山噴火への建築設備の視点からの備え.空気調和・衛生工学.2026年,vol.100,no.3.p.21-28.

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