防災DXとは何か~デジタル技術を駆使した災害対応の取組み~

2025年12月18日

クライシスマネジメントコンサルティング部 BCM第2グループ

上級コンサルタント

菅 正史

防災DXとは何か~デジタル技術を駆使した災害対応の取組み~

1. 防災DXとは

近年、「防災DX」などといった言葉を聞く機会が増えているのではないだろうか。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、ビジネスシーンでデジタル技術を活用し、競争力を高める取組みとして注目を集めており、近年は防災においても大きな期待が寄せられている。


防災DXとは、防災対策にデジタル技術を取り入れることで、災害対応の効率化と効果的な災害対策を実現する取組みを指している。背景として、日本は災害が年々頻発化・大規模化・複雑化している一方で、社会の側は少子高齢化や施設の老朽化等により対応力が弱まっていることが挙げられる。限られた人的リソースで、増加傾向にある自然災害に効率的に対応できるようにするため、デジタル技術を駆使した防災DXへの期待が高まっている。

2. 防災DXのメリット・課題

自治体や企業が導入する防災DXにおいて、システム化を行う側と利用者側の双方におけるメリットや課題には下表のようなものが挙げられる(表1・2)。メリットには、DXを活用することによる迅速性・正確性の向上や、被災者へのサービス均一化といったものがある。一方、システム導入に伴うコストや人材の不足、またプライバシー保護といった近年特有の懸念事項などが課題となっている。

表1 防災DX導入のメリット

緊急情報の迅速な伝達 正確な情報をいち早く住民や従業員に届けることができるため、受け取った側は素早く適切な行動をとることができ、被害を最小限に抑えることが可能となる。
被害状況の正確な把握 被災地の状況をリアルタイムかつ広範囲に情報収集することが可能。被害の広がりや集中する箇所を正確に特定し、適切な救援や復旧活動を行うことができる。
被災者サービスの均一化 災害時は自治体職員も被災し、十分な対応ができない可能性がある。防災アプリによる避難所の位置情報や混雑状況の共有、被災者からの問い合わせ対応、罹災証明書の発行手続きなどのデジタル化等により、災害時の手続きがスムーズになり、被災者の負担が軽減される。


表2 防災DX導入の課題

システム導入・運用のコスト システムの構築や機器の購入には高額な費用がかかる。また導入後は定期的なメンテナンスやアップデートも必要。
スキルを持つ人材の不足 防災DXの効果的な運用に必要な、適切なスキルを持つ人材が不足している。新技術を使いこなすために欠かせない継続的な教育や研修にも時間とコストがかかる。
高齢者等への配慮不足 高齢者やデジタル機器に馴染みのない住民への情報伝達方法が課題。スマホアプリやメールだけでは不十分なため、防災ラジオや広報車などのアナログ手法との併用が必要。
システムの標準化が進んでいない 防災システムの導入に際し、フォーマットや表記を含めシステムの標準化がいまだに進んでおらず、災害発生時に被害状況や対応状況を一元的に管理することが難しい。
プライバシー保護 住民の個人情報を扱うことが多く、情報漏洩や不適切な利用は法的問題を引き起こす可能性があるため、厳しいセキュリティ対策が必須。古いシステムは脆弱性が高く、サイバー攻撃のリスクも高まる。

3. 国を挙げた防災DXの取組み

日本では、デジタル庁を中心に防災DXを推進し、災害時の迅速な対応と被害軽減を目指している。ここでは政府の主な取組みとして3点を紹介する(表3)。

表3 防災DXに関する国の主な取組み

「防災DX官民共創協議会」発足[1]

2022年12月に発足。主なミッションとして、防災DXに関する課題の特定、防災データの連携基盤の策定、防災DXアプリの市場形成等がある。能登半島地震では石川県庁に入り、県の災害対応をデジタル面から支援した。

2025年11月11日時点で会員数565(地方公共団体118、民間事業者等447)

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」[2] 2024年6月にデジタル庁が策定した同計画では、防災DXを重点的な取組みの1つに位置付けている。具体的には、災害対応機関で共有する防災デジタルプラットフォームを2025年12月までに構築することとしている。
「防災DXサービスマップ」の作成[3] 防災DX官民共創協議会が作成した、防災サービスの周知を目的としたサービス一覧。災害対応を「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧・復興」の4つのフェーズに分類し、それぞれの局面で有用とされるサービスを掲載している。
なお、当社のサービスではSORAレジリエンスが掲載されている[4]

4. 防災DXの事例

防災DXは既に複数の自治体・企業において導入されている。その事例についていくつか紹介する(表4)。

表4 防災DXの事例

AIチャットボット 災害発生前に予防策や準備方法を案内して災害への備えを促し、災害時には災害情報や避難指示等をリアルタイムで提供して、住民が適切な行動を取れるようサポートする。多言語対応も可能であり、外国人避難者への情報提供にも役立つと想定される。
防災アプリ 自治体や防災機関が提供する防災アプリは、スマホのプッシュ通知で災害時に必要な情報(被害予測や避難指示、避難場所の情報、支援物資の配布状況等)を迅速かつ正確に住民へ伝達する役割を果たす。一部のアプリには、家族や友人と連絡を取るためのチャット機能や安否確認機能も搭載されている。
SNSでの被害状況把握 近年は発災時にSNSでの情報が頼りになるが、一方で誤情報も拡散されやすい。そこで、各種SNSやニュースアプリなどの情報をAIで解析し、信憑性を確認しながらリアルタイムで情報を収集できるサービスが開発されている。
ドローンによる被災状況の確認 被災地の状況を迅速に把握するための有力なツールとして、上空からの把握が可能なドローンの導入・活用が進んでいる。地震や洪水などの災害発生時に、被災地域の建物の損壊状況や孤立した被災者の位置を特定することで、初動対応の迅速化が期待される。

オンラインツールによる

災害情報の共有

災害対策本部の運営においては、災害情報の共有が重要になる。クラウドシステムやTeams・Zoomなどのオンラインツールを活用することで、複数拠点での情報をスムーズに収集し、災害対策本部の意思決定を支援する。

なお、当社では、災害訓練におけるドローンの活用や、演習動画コンテンツ「災害対応ゲームDX(STG-DX)」等のサービスを展開している。興味があれば是非ご覧いただきたい。

5. 終わりに

災害多発国の日本で、災害対応のDX化は避けて通れないプロセスだと言える。すべての災害対応業務をDXにする必要性はないと思われるが、自治体職員の負担を減らし、住民に対しより効率的・効果的な対応を可能にするためには、現在利用できるツールを積極的に利活用していくことが必要と考えられる。


これからの自治体や企業には、デジタル技術を効果的に活用し、官民一体となって災害対応体制の強化を図っていくことが求められている。

防災DXサービス導入に関するご相談

災害対応ゲーム-DX(STG-DX)

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災害発生時の企業・団体等の対応を、参加者がゲーム感覚で具体的にイメージし検討する、演習動画コンテンツです。

SORAレジリエンス

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企業のリスクマネジメントやリスク情報の収集をサポートするWEBシステムです。

ドローン活用・支援

ドローン活用・支援

目的や用途に応じた、ユーザー目線でのドローン利活用について、導入と効果的なステップアップを支援します。

参考文献

[1] 防災DX官民共創協議会 https://ppp-bosai-dx.jp/ (閲覧日:2025-11-20)

[2]デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2025/06/13)(閲覧日:2025-11-20)

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/cd4e0324/20250613_policies_priority_outline_03.pdf

[3]防災DXサービスマップ https://bosai-dx.jp/ (閲覧日:2025-11-20)

[4] https://bosai-dx.jp/risk/3379/ (閲覧日:2025-11-20)

[5]ジチタイワークスWEB「防災DXとは?自治体の事例から見るデジタル技術を活用した災害対策」

https://jichitai.works/articles/2627(アクセス日:2025-11-20)

[6]一般社団法人 行政情報システム研究所「行政&情報システム2024年10月号『官民共創による防災DX』」

菅 正史

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