東証要請で期待される一段のガバナンス改革と株式市場の活性化

ESG/CSR/環境 NEW

2024年3月27日

リスクマネジメント事業本部
サステナビリティ部 ESGグループ

上席コンサルタント 証券アナリスト

村形 真樹子

東京証券取引所(以下、東証)が、2023年3月に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」等(以下、東証要請)について、市場関係者の関心が高まっている。東証は、2024年1月15日に企業の対応状況について一覧表を公表し、また、2月1日には「投資家の視点を踏まえた『資本コストや株価を意識した経営』のポイントと事例」や具体的な対応の「事例集」を公表している[1]

東証は、2022年4月の上場市場区分の見直しに伴い、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を設置し、見直しの実効性向上の検討を進めてきた。2023年1月の本会議における論点整理 において、「金融資本市場、ひいては日本経済の活性化に向けて、3つの市場区分を活用して、上場維持基準への抵触の懸念のない上場企業に対しても、資本コストを意識した経営の推進等、中長期的な企業価値向上に向けた自律的な取り組みの動機付けとなる枠組み作りを進めるべき」との指摘を踏まえ、今回の東証要請が実施された。具体的には、資本収益性や成長性への課題に対し、経営層に向け、現状分析、改善に向けた計画策定や開示、取り組みの実行、を要請するものとなっている(図表1)。

 

東証要請内容

図表1 東証要請の内容

(出典)JPX, 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」より当社作成

 

 

今回の要請に関して、特に注目を集めたのが、東証がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して改めて問題提起をしたことだ。PBRとは、株価を1株当たりの純資産額で除した数値で、1倍を下回る場合は解散価値の方が株式価値(企業価値)より高いとみなされる市場評価の物差しの1つである。本要請は、「PBR1倍割れ」の状態を放置している経営の責任を明確化するものであり、これまでのダブル・コード(コーポレートガバナンス・コード/スチュワードシップ・コード)による啓発等でも十分に浸透していない日本企業のガバナンス改革に一石を投じるメッセージとなっている。プライム市場上場企業の約半数、スタンダード市場上場企業の約6割がPBR1倍割れとなっている状況(要請当時)に対し、市場の評価向上(PBR1倍割れの解消)をエビデンスとして、要請に実効性を持たせようとする点で市場関係者から高い関心が寄せられている。

 

PBRは資本収益性指標のROE(自己資本利益率)と企業の成長期待を反映するPER(株価収益率)の積で示されることは計算式の通りである(PBR=ROE×PER[2])。日本では、長引くデフレの影響等から投資の先送り等による内部留保の積み上がりや政策保有株の多さ、収益力や株主還元の低さ等の要因により資本収益性の低さが指摘されてきた。2014年に経済産業省によりまとめられた「伊藤レポート」[3]では、資本効率を重視した経営の実現に向け、中長期的なROEの向上(目標8%)が掲げられており、本要請でも、経営者の資本収益性や株価に対する意識改革の重要性が指摘されている。

 

図表2は、要請後のフォローアップとして開示されたPBR1倍未満の企業における資本収益性や市場評価の改善に向けた取り組みについて主な項目をグラフ化したものだ。該当企業のROE水準に関係なく「成長投資」が最大の関心事となっており、次いで、「株主還元の強化」や「サステナビリティ対応」について半数を超える企業が対応策として掲げている。また、ROEが比較的高くてもPBR1倍未満の企業について、「IRの強化」、すなわち情報開示を通じた市場との対話の強化(資本コストの低減※)を掲げる企業が半数を超えている点も注目され、東証では、上場企業のIR活動支援のための専門部署を開設し、IR活動の課題解決をサポートする体制を整備することが報道されている[4]

 

※企業価値と情報開示について言及した、コラム「VUCA時代の企業価値向上-サステナビリティ戦略と情報開示」もご参照ください。

https://www.sompo-rc.co.jp/columns/view/38

 

PBR改善に向けた対策

図表2 PBR改善に向けた対策

(出典)JPX「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する開示企業一覧表の公表について」より当社作成

 

 

東証要請は、企業が資本収益性の観点で、一過性の自社株買いや増配を行うのではなく、「継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取り組み」を行うことを求めている。要請をきっかけとした企業のガバナンス改革進展への期待が、1990年来の日本株高値更新の一助となっているとの指摘もされている。PBR1倍割れ(上場失格)という厳しい評価を受け止め、サステナビリティを意識したガバナンス改革や市場との対話が進むことで、それを評価する投資家が増加し、株式市場が一段と活性化することを東証要請が後押ししていくことが期待される。

 

 


[1]  JPX,市場区分の見直しに関するフォローアップ,

https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/index.html  (アクセス日2024/3/11)

[2]  ROE=当期純利益÷純資産(自己資本)

  PER=時価総額÷当期純利益

  PBR=時価総額÷純資産(自己資本)

 [3]  経済産業省,「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト,

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf (アクセス日2024/3/15)

 [4] 日本経済新聞, https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78602900Z10C24A2EE9000/(アクセス日2024/3/11)

 

村形 真樹子

リスクマネジメント事業本部
サステナビリティ部 ESGグループ

上席コンサルタント 証券アナリスト

このコンテンツの著作権は、SOMPOリスクマネジメント株式会社に帰属します。
著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、SOMPOリスクマネジメントの許諾が必要です。
※コンサルタントの所属・役職は掲載当時の情報です。

ESG CSRに関するサービスのお問い合わせ