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設備アセットマネジメントの新潮流「Maintenance 5.0」 〜AI活用のための「データ整備」という第一歩〜
1.Maintenance 5.0とは何か ― 設備保全に求められる新たな視点
これまで製造業のデジタル化を牽引してきた「Industry 4.0」では、IoTやAIを活用した生産効率の最大化、つまり、コスト削減や稼働率向上が主な目的とされてきた。しかし、いま、その先を見据えた新たな潮流として、「Maintenance 5.0」というフレームワークが注目されている。
Maintenance 5.0は、単なる技術的な効率化に留まらない。このフレームワークでは、設備保全を「人間中心」「持続可能性」「品質貢献」の3つの視点から捉え直し、企業や社会の持続的な成長を支えるコア機能として再定義している[1]。
| 人間中心(Human-Centered)と AI駆動(AI-driven)の統合 |
AIによる高度な予測分析と、現場のオペレーターの働きやすさや意思決定支援を統合し、人と技術が高度に協調する環境を目指す。 |
| サステナビリティ(持続可能性)の達成 | 従来の経済的側面に加え、環境配慮や従業員の安全、働きがいといった「社会的責任」までを考慮した保全活動を推進する。 |
| ゼロディフェクト(不良品ゼロ)製造への貢献 | 故障を防ぐだけでなく、高品質な製品を欠陥なくつくり続ける「高品質なものづくり」を維持することを重要戦略と位置づける。 |
2.理想の前に立ちはだかる現場の現実 ― 情報のサイロ化という壁
しかし、この先進的なMaintenance 5.0の概念を実践しようにも、多くの企業が足踏みをしている。製造業やビル管理の現場では、今なお紙ベースの記録、属人的な運用、事後保全中心の対応が根強く残っており、「情報のサイロ化(分散)」という大きな壁が存在する。
設備台帳、点検記録、トラブル履歴といった重要情報が、紙や個人のExcelファイルに分散し、担当者しか分からないブラックボックス状態では、情報の分散・分断化を引き起こし、リスクの早期発見や適切な投資判断は困難となる。また、非定常なトラブル対応時にも過去の知見を活かせず、設備故障や労働災害・産業事故を誘発してしまう危惧もある。
実際に、製造業の事故分析をした研究においても、設備の故障が労働災害や事故の発生件数およびその深刻度に多大な影響を与えていることが実証[2]されている。小さな不具合の見逃しや不適切なメンテナンス、保全技術の引継ぎ不足などが積み重なって起こる設備の故障は情報のサイロ化に起因するとも言え、放置できない課題となっている。
3.アセットマネジメント規格ISO55000シリーズが示す情報基盤の重要性
この理想と現実のギャップを埋めようとするうえで参考になるのが、アセットマネジメントの国際規格である ISO 55000 シリーズである。この規格では、アセットマネジメントを「組織が資産(アセット)を通じて価値を実現するための体系」と定義し、ライフサイクル全体での戦略的管理を求める。その中で一貫して強調されているのが、「アセット情報」の重要性であり、意思決定を支える基盤として、情報の正確性、完全性、一貫性、そしてアクセスしやすさが重視されている[3]。
設備に当てはめると、次のような情報がシームレスに連携しているのが理想である。
| ・設備台帳(仕様、構成、設置場所、重要度など) ・点検・診断の履歴 ・トラブルの内容と原因・対策 ・修繕・更新の履歴とコスト ・センサーなどの状態監視データ ・熟練技術者の判断基準やノウハウ |
これらの情報が統合され、信頼できる形でいつでも引き出せる「情報基盤」があって初めて、Maintenance 5.0が目指す、人間とAIの統合やサステナビリティといった概念が絵に描いた餅ではなく現実的な目標となる。
4.現実的なファーストステップ ― 情報基盤を構築する3つの手順
概念を単なる絵に描いた餅に終わらせず、現実的な設備保全DXからMaintenance 5.0を進めるためには、まず信頼性の高い情報基盤の構築から着手すべきであろう。具体的には、次の3つのステップでの整備が考えられる。
| データの整理・一元化 | バラバラに管理されている設備台帳や各種履歴を統合し、設備ごとのライフサイクルデータを一貫して追跡できる体制を整える。 |
| データの標準化・構造化 | 紙や個人フォルダのデータを、誰もが活用できる統一されたデジタルフォーマットに変換し、AIが分析可能な形式に整える。 |
| 暗黙知の形式知化 | ベテラン技術者の経験や勘を、点検項目や異常検知のルールとしてシステムに落とし込み、組織の資産として継承する。 この情報基盤を整備していくことで、AIを活用した予知保全モデルの導入、リスクに基づく投資判断、サステナブルを意識した設備保全戦略、さらには、Maintenance 5.0の次なるステージへと進むことができる。 |
5.確かな情報基盤から、Maintenance5.0へ
設備保全における情報の価値は、今後さらに高まっていく。自社の状況に合わせ、まずは情報基盤の質を高め、統合を図ることから始めることがMaintenance 5.0の実現に向けた、確実で現実的な第一歩と考えられる。
SOMPOリスクマネジメントでは、情報の分散や属人化といった課題を解決し、設備保全DXを支援するクラウドサービス「EMLink(イーエムリンク)」(株式会社設備保全総合研究所提供)を紹介している。EMLinkによる現場情報の一元管理・活用を通じて、人間とAIが融和する持続可能なメンテナンスの未来へ向かうサポートを行っている。
EMLink(イーエムリンク)」のご紹介
参考文献
[1] Psarommati, F. et al. (2023), “Envisioning maintenance 5.0: Insights from a systematic literature review of Industry 4.0 and a proposed framework”, Journal of Manufacturing Systems
[2] Bourassa, D. et al. (2015), “Equipment failures and their contribution to industrial incidents and accidents in the manufacturing industry”, International Journal of Occupational Safety and Ergonomics.
[3] ISO 55000:2024, “Asset Management – Vocabulary, Overview and Principles”.
(本稿の表現は定義内容の要約であり、公式和訳・逐語訳ではない)
【ご留意事項】
本稿は、読者の皆さまへの情報提供を目的として作成しております。記載内容は一般的な見解であり、個別の状況に応じた専門的なアドバイスに代わるものではございません。本情報のご利用にあたっては、読者ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。
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