「総合物流施策大綱」に見るコンテナターミナルの将来

製品・施設

2021年7月27日

リスクマネジメント事業本部
リスク調査部

物流・スポットアシスタンスグループ
主任コンサルタント

秡川 明久

2021年6月15日、政府は『総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)』を閣議決定し、今後の物流施策の指針を示した 。今回の大綱では「簡素で滑らかな物流」「担い手にやさしい物流」「強くてしなやかな物流」をキーワードに、物流のデジタル化や構造改革、持続可能性の向上を推進する姿勢を鮮明にしている点が特徴と言える*。

 

今回の大綱が世に出される以前から、わが国の物流はトラックドライバーを中心とした労働力不足が課題として知られており、物流事業者は労働環境の改善、積極的な採用の展開、社内教育の充実、荷主との値上げ交渉などに取り組んできた。また高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行や倉庫内の自動搬送マシンなど、各周辺機器メーカーも省人効果が見込める各種の新技術を開発しており、一部はすでに運用が開始されている状況にある。

 

物流業界の人材確保が困難になる中、国内の物流網を維持し効率化するための施策は、当事者である物流事業者だけではなく周辺機器メーカーも協力して取り組んできた結果、倉庫内の自動搬送マシンなどの成果が得られつつあると言えよう。一方で長年わが国の経済成長を支えてきた国際物流の領域は、国内物流ほどスポットライトが当たる機会が多くなく、各種取り組みもオプション的な操作補助装置の導入にとどまるなど、緩やかな状況である。

 

このような状況の背景としては、陸上貨物運送業と比較して参入事業者や機器メーカーの数が限られる点、大型クレーンやトレーラーを操作する「職人技」が占める部分が大きい点、前回大綱で現場の作業以上に書類手続きの電子化等に重点が置かれた点などが推察される。しかし現場労働者の高齢化と人材確保の困難さは、国際物流に関わる企業も陸上貨物運送事業者と近い状況にあり、今回の大綱では国際物流の窓口である港湾労働に多くの言及がなされている点は注目すべきと言える。

 

では政府は港湾労働の将来像についてどのような構想を提示しているのであろうか。それは「人間からAIへ」あるいは「搭乗から遠隔操作へ」という流れである。特に今回の大綱からは、政府が国際物流の主力拠点であり大型クレーンでの作業が中心となる外航コンテナターミナルの操業において大きな変化を期待していることが伺える。現在世界の輸出入では海上コンテナが使用されることが一般的だが、近年では世界中の主要港でコンテナターミナルでの混雑・渋滞が課題となっており、わが国においても傾向は同様である。

 

これは拡大し続ける貿易量に対応するため、世界中の港湾が海上コンテナの荷扱い能力よりも保管能力を優先した荷役方式を希求した結果であるが、わが国の場合はこれに加え、ターミナルのゲートオープン時間(一般的な店舗でいう営業時間)が日中に限定されており、物量に対し混雑が深刻化しやすい状況にある。もちろん繁忙期や災害発生時、あるいはオリンピックのように特別なイベントが開催される場合は、ゲートオープン時間を延長するなど、各ターミナル事業者も最大限の協力を実施しているが、現場作業者のローテーション等を考慮すると、他国の港湾で実現している24時間ゲートオープン等は実現困難と言わざるを得ない。

 

実は、港湾労働者の確保はすでに海外の港湾でも深刻化しており、欧州や中国では2010年代から徐々にターミナルオペレーションの無人化・遠隔化が進行している。今回の大綱からは現場の世代交代と併せて、わが国のターミナルオペレーションも諸外国の潮流に合わせていこうとする意図が伺える。わが国でも名古屋港の一部では、ターミナル内のコンテナ搬送車両の無人走行が実現しているが、今後はより広範な作業で無人化・遠隔化が試行されていくものと思われる。

 

これまで人間が経験知で行っていた作業をAIやプログラムに代替することは、クレーン作業者や車両ドライバーの技能伝承が断絶することを意味するため、安易な乗り換えにリスクが伴うのは事実である。しかし、製造業では技能をAIやプログラムに継承させていく試みがスタートしており、遠くない将来に港湾作業にもその波は波及するものと考えられる。そうなった場合、今後は採用するAIのアルゴリズムや遠隔操作のプログラムの「質」が問われる時代となるであろう。作業効率と作業品質のバランスに優れ、コンテナ内の貨物の破損リスクを最小化するアルゴリズムやプログラムが求められる将来が予測される。それらアルゴリズムやプログラムの構築で主導権を確保するためには、これまでブラックボックス化してきた各種クレーンの操作データと、海上コンテナに加わる振動や衝撃等とのデータ照合に取り組むことから始めなければならないであろう。

 

* https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000560.html

秡川 明久

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