「攻めのカスハラ対策」で従業員を守る! ~①カスハラの基礎知識~(2024年5月30日掲載)

2024年2月、東京都議会の定例会において、「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」を防ぐための条例制定に向けた検討を進めることが明らかになった。また、今月、自由民主党の雇用問題調査会・カスタマーハラスメント対策プロジェクトチームからは、カスハラに関し、労働者が安心して働くことが出来る環境を整備するための提言が発表された。このように、カスハラが社会問題として認識され、政府や自治体が動き出している状況の下、カスハラに関する法律の改正や条例の制定を注視する企業や組織も増えてきたのではないだろうか。しかしながら、大切な自社の人材を守るためには、法改正などによる義務化を待つだけではなく、企業や組織として、「攻めのカスハラ対策 [1]」に取り組むことが求められる。それゆえ、企業や組織は、今、カスハラについて何を知り、どのような対策をするべきか、本コラムでは、3回にわたって企業・組織のカスハラ対策について概説する。第1回目は「カスハラの基礎知識」として、カスハラの定義やカスハラへの基本的な対策について整理したい。

 

そもそも、カスハラとは何を指す言葉だろうか。厚生労働省は以下のとおり定義している。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。 [2]

 

ここで留意していただきたいことの1つは、顧客「等」との記載の通り、カスハラの行為者は何も消費者だけではないということである。よくある誤解が、カスハラは、消費者向けのビジネス、BtoCのビジネスをする企業・組織の話であって、BtoBのビジネスをする企業・組織は関係ないと思い込むことだ。BtoBのビジネスをする企業・組織におけるお客さまは、取引先やグループ会社など広く自社とかかわりのある関係会社であり、法人もカスハラの行為者となりうる。正確には、法人で活動する労働者が行為者となるわけだが、大事なのは、BtoBのビジネスをする企業もカスハラの被害者になる可能性があるし、さらにはカスハラの加害者にもなり得ると心得ておくことである。

 

カスハラの定義と留意点が分かったところで、ここからは、読者のみなさまが最も関心があると思われるカスハラ対策について、以下の図を使って詳しく見てみたい。当社は、リスクコンサルティングの会社であるが、リスク管理の観点で時系列にカスハラ対策を考えてみると、「平時」、すなわち事前に講じておくべき備えと、「有事」、すなわち事が起きた時の項目とに大別できる。

平時の項目としては図の左側、有事の項目としては図の右側の項目が挙げられる。

図表1 リスクマネジメントの観点から見るカスハラ対策 [3]

 

上記8項目は、厚生労働省が示す基本的なカスハラ対策である。加えて、法律的な観点から言えば、労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条において、事業主には、いわゆる安全配慮義務が課されている。だが、カスハラ対策においては、法律で罰せられないために何かをするのではなく、冒頭でも記載した通り、「従業員を守る。人材を大切にする。」という視点に立って、カスハラの予防措置やカスハラに遭ってしまった従業員の心のケアに取り組んでいただきたい。なぜなら、人手不足の昨今、カスハラ対策に積極的に取り組む企業・組織には、自ずと優秀な人材が集まり、ひいては自社・自組織の事業存続や企業価値向上に大きな効果をもたらす可能性があるからだ。

 

ここまで、カスハラの基礎知識について記載したが、次回は、平時のカスハラ対策に焦点を当てた内容を概説する。

 


[1]ここでは、法律論や義務感からカスハラについて対応するのではなく、企業・組織が自主的・自発的に取り組むカスハラ対策を「攻めのカスハラ対策」と定義する。

[2][3]上部の図は当社作成。下部の項目は厚生労働省,カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf(アクセス日:2024-05-02)

[4]「自由民主党,カスタマーハラスメントの総合的な対策強化に向けた提言」

https://www.jimin.jp/news/policy/208229.html(アクセス日:2024-05-18)

(2024年6月6日更新)

 

西 彩奈

GRCコンサルティング部

人的資本グループリーダー 上級コンサルタント
産業カウンセラー

サステナビリティコンサルティング部 人的資本グループ

産業カウンセラー / 第一種衛生管理者 / キャリアコンサルタント(国家資格) / 消費生活アドバイザー(内閣総理大臣及び経済産業大臣事業認定資格) / アンガーマネジメントハラスメント防止アドバイザー / カスタマーハラスメント対応実務者

略歴・実績

前職にてBCMや顧客満足・苦情対応に関するコンサルティング等に従事した後、2020年入社。
15年以上にわたり、人的資本経営支援・顧客満足・苦情対応コンサルティングに多数従事。
特に、製造業、建設業、運輸業、卸売業・小売業、生活関連サービス業・娯楽業や業界団体など幅広い分野の企業に対し、顧客満足(CS)・従業員満足(ES)やハラスメント、女性活躍、キャリアなどをテーマとした研修やコンサルティングなどの実績を持つ。
SOMPO AWARDS2024「チャレンジ」カテゴリー 最優秀賞受賞。
■講師・委員等:
・厚生労働省委託事業「平成27年度働きやすい職場環境形成事業(パワハラ対策取組支援セミナー分)」事務局
・公益財団法人消費者関連専門家会議(ACAP) 執行委員・CXイノベーション研究会 研究員
■著書・寄稿・取材など:
・『現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック~カスタマーハラスメント対策の手引き~』,ACAP編著,PHP研究所(執筆協力)
・ 『新時代のリスク対応37 パンデミックで高まる人材リスクー働きやすさ・働きがいを』(2021年9月2日付、日刊工業新聞)
・ 『新時代のリスク対応98 人的資本経営の往古来今ー分析・強化・開示が重要ー』(2024年5月16日付、日刊工業新聞)

・『明るく働きやすい職場づくりのためのハラスメント防止研修』(令和4年12月号~令和5年2月号菓子、菓子工業新聞)

・『悪意 VS 企業 カスハラ炎上・・・揺らぐ性善説』(2023年3月27日号 日経ビジネス)

・リスク管理の視点から取り組むカスハラ対策のアプローチ-人的資本経営を推進する上で「経営課題」として認識・対処を-(2024年11月5日号、週刊金融財政事情)

・東京都、全国初のカスハラ防止条例成立 25年4月施行(2024年10月4日、日本経済新聞(朝刊)コメント)

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