医療現場を変えるアイデア
新しい働き方を探して
Vol.5

病院DXの現在地とこれから

一般社団法人日本病院DX推進協会「病院DX」

取材日:2026年3月2日




ICTの導入が広がる一方、それを組織や業務変革にどうつなげるかを模索している病院は少なくありません。
今回は、病院DXを普及啓発や企業との連携促進等を通じて支援する一般社団法人日本病院DX推進協会に、
同協会の理事が在籍するHITO病院の事例も交えながら、病院がDXを進めるうえでのポイントをお聞きしました。

病院DXの現在地
デジタル化は進むも、DXはまだ途上

―病院DXの現在地について、どのように見ていますか。

篠原直樹(医師。日本病院DX推進協会事務局長・理事/社会医療法人石川記念会HITO病院CXO・CHRO):

デジタル技術の導入で、部分最適が進んだ病院は多いと思います。スマートフォンを導入している病院も増えましたし、今後もそのあたりのICT導入は、補助金も活用されながら進むのではないでしょうか。
一方で、生成AIを活用し始めた病院もみられますが、デジタル技術によって組織が変わり、働き方が大きく変わりました、という事例はまだあまり聞かない。真の意味でのDXはこれからでしょうね。

―技術を入れた先にある、組織や働き方の変革こそがDXの本質ということですね。
 現場からは「どこから手を付けてよいかわからない」といった声も聞きます。何から着手すべきでしょうか。

石川賀代(日本病院DX推進協会代表理事/社会医療法人石川記念会HITO病院理事長/石川ヘルスケアグループ総院長):

まずは、病院として何を課題としているのか、なぜその解決が必要なのかを明確にすることです。そのうえで、解決のツールとして何を使うのかを整理し、DXを進めるための戦略を立て、実行するメンバーを選出し、経営層とも連携しながら計画を具体化します。
パイロット部署で小さくやってみて、うまくいったものを横展開していく。私たちのHITO病院でもそのように進めてきましたし、現実的にはそうした進め方になるかと思います。

―経営層の牽引が重要になると思いますが、HITO病院ではどのような形を取られていますか。

篠原:当院では、組織のトップである理事長、つまりCEO的な立場の人間とIT系の責任者であるCIO、財務の責任者であるCFO、それと私のように臨床の視点から課題を抽出する者が中心となって、DXの検討や推進を担う体制を組んでいます。

全体最適には複数の立場の者が一緒に検討していくことが重要で、IT担当だけ、臨床部門の変革担当だけでは実現は難しいでしょうね。

―トップ主導の下、実際の現場ではどのように進めていくのでしょうか。

石川:ほとんどの病院は、院長をトップとしたピラミッド型の組織構造になっていると思いますが、それだけで動かすことは難しいです。対象となる部門と組織横断的に動ける人材――財務や人員配置、企画などの担当者――でチームを編成して、進め方を調整・検討する。そして、実際に現場で始める時には、看護部長や委員長などピラミッド上のリーダーに協力してもらいながら進める。

機動的な組織横断チームと既存組織を束ねる層の組合せが、実際に進めるうえで必要だと思います。

―先ほど、パイロット部署で小さく始めるというお話がありましたが、どのようなところから始めるのがよいでしょうか。

篠原:現行の方法でやりづらさを感じている人たちや、時間外労働や集まる回数が多いといったように、課題を抱えている部署に導入するのが、効果も実感しやすくてよいでしょうね。

例えば、下から上へのコミュニケーションが取りづらいという課題があるなら、医師に対し電話しづらいと思っているメディカルスタッフに、スマートフォンを持ってもらって情報を上げやすくする。普段、コミュニケーションを難なく取れている人たちに持ってもらっても、あまり変化はないでしょうしね。

進まない理由は「目的なきデジタル化」
コミュニケーションの見直しも必須

―DXが進んでいる病院と、なかなか進まない病院の違いはどこにあるとお考えですか。

石川:大都市圏以外は人口減少に直面し、人の確保が難しくなっています。新たな環境に対応すべくDXを進めなければいけないというのは、経営層もわかっていると思います。

ただ、病院として何を解決したいのか、なぜそれで解決できるのか、という点を明確にしないまま、デジタル化やシステム導入そのものを目的として、情報システム部門に丸投げしてしまっているケースも見受けられます。それだとDXは進まない。DXで何を実現したいかが明確になっているかどうか、そこが違いとして一つあるのではと思います。

篠原:DXを本気で考えるなら、組織のあり方を変えないといけないのですが、そこが十分にできていないのかなと。DX人材の確保が難しいなか、既存のスタッフが通常業務を行いながらプロジェクトに参加するケースが多いと思います。そうなると、まず必要になるのはメンバー間のコミュニケーションのあり方を変えることです。

スマートフォンを入れてどこでもチャットできるようにすれば、情報の流れが変わり、集まって意思決定をするワークフローも見直されていく。土台として円滑なコミュニケーションが行える環境にあることが、次のステップへ進むための大前提となります。

石川:あとは、費用対効果の話もよく出ますが、DXではワークフローの見直しなど、複数の要素が連動して初めて成果が出るものです。単純にデジタルを入れたからといって、例えば時間外労働が劇的に減るといったことはなかなか起きない。最初から費用対効果を目指すと、つまずきやすいでしょうね。

―DXの成果を測るのに、費用対効果のほか効果検証の重要性も指摘されます。この点についてはどのようにお考えですか。

篠原:確かに、効果を数値化できたらよいですが、今は負担感なく検証できる手法がまだないので、難しいですね。時間外労働のように、すでにあるデータを活用できれば別ですが、現場の負担を軽減するためのDXなのに、逆に検証のために現場に負荷をかけてしまうのは、どうかなと。

2026年度診療報酬改定では、ICT機器等の活用による人員配置の緩和も導入され、一定の評価は必要になりますが、日常の取組みのなかでは、課題に対して「これを入れたらこうなるんじゃないか」という仮説を立てて試してみて、実際に効果を実感した人がそれなりにいたり、ストレスが軽減されたとか、それぐらいでいいのかなと。あとはどうやって運用面の精度を上げていくかの検討になると思っています。

―経営層としては、現場から「これを入れて楽になった」「仕事がしやすくなった」という声が聞ければ、それを推進していくべきということでしょうか。

石川:そうですね。今は本当に人材確保が難しくなっているので、働きやすい環境を整えていかなければ、持続的な採用が難しくなるというのもあります。

「電話しかコミュニケーションがない」「医師はデジタルを使えない」だと、若い世代には育ってきた環境とのギャップがありすぎて、受け入れられない。医療現場だから使えない、としてしまうのではなく、組織として新しいものを取り入れる文化を醸成していくことは、選ばれる病院を作るうえでも必要だと思います。

「これを入れたい」より「これを解決したい」
経営層を動かす現場の提案

―現場サイドで入れてほしいものがあっても、意思決定層の理解を得られずに導入が進まない、といった悩みを聞くことがあります。
現場の提案が通りやすくなるためのポイントなどはあるでしょうか。

篠原:提案のアプローチとして大きく2つあると思います。

「この技術を入れたらこれができるので入れてほしい」という技術志向。それと「現場でこういう課題があるので、それを解消するためにこれを導入したい」という課題志向。技術志向で提案した場合、経営層が技術のことに詳しくないと、その効果をイメージしにくい。おそらく、現場の提案が理解を得られないというのは、技術志向で話しているのではという気がします。
組織の課題解決にどうつながるのか、イメージを共有することが合意形成には大事だと思いますね。

石川:仕組みが複雑だったり、一部でしか使われないものは、後々使われなくなるケースもよくあります。特定の部署に限った話ではなく、コストやそこに関わる人たちの働き方で省力化できる部分など、組織全体への影響を考慮した視点が必要ですね。

―企業と協力して、他院の事例などのデータを示すことは、現場の提案の後押しになるでしょうか。

篠原:データより運用の仕方をどう説明するかでしょうね。効果を示すデータだけ出しても、そのデータを出すためにどう働き方を変えていくのか、というのがイメージできない人が多いので、そこがポイントかもしれません。

起こりがちな「業務の重複」と「データの分断」
リスク管理には部門を超えた新体制を

―DXで起こりがちな問題はありますか。

篠原:新しい技術を導入しても「代わりに何をやめるか」が決まっておらず、業務が重なった状態のままで、結局よくなったかどうかの判断が微妙なケースはよくありますね。

「以前と同じようなことをデジタルでやっているだけ」というのは起こりがちです。これは組織としての問題で、技術面ではまた別の問題があると思います。

佐伯潤(日本病院DX推進協会/社会医療法人石川記念会HITO病院DX推進室室長):

技術面では、各部署がそれぞれ最適なシステムを導入した結果、データが横断的に共有されず、部門のなかに閉じてしまう、いわゆる『タコツボ化』が起きがちです。
データを病院全体で一体的に活用するためにも、経営層がコミットし、全体最適の視点で設計していくことが必要ですね。

―導入後の運用までイメージしておくことが大事なのですね。DX推進に伴うリスク、例えばサイバー攻撃や医療安全部門の役割については、どのようにお考えですか。

篠原:DXに付随するリスクは、従来の医療安全管理室が単独で取り組むには難しいと思うので、IT部門やDX推進室と一緒にやるのがよいと思います。生成AIの活用もそうですが、まだ不確定な部分もあるので、企業と一緒に取り組むのも一つでしょうね。

サイバーセキュリティ対策は必要ですが、費用が相当かかるので、どこまで対応するかの見極めが課題になります。

石川:そうですね。サイバーセキュリティもその他のリスクについても、色々なガイドラインが示されていますが、そのなかで何を選択するかは、病床の規模や病院の機能によっても変わってくると思います。

佐伯:医療安全管理室が担うところでいえば、どちらかというと倫理レベルの安全性など、院内で議論すべき最低限の基準を明確にしておくことでしょうね。そこを押さえたうえで、コストや対応範囲の落としどころを決めていくイメージです。

―協会として、病院が安全にDXを進めるために行っていることはありますか。

篠原:現在は、好事例をアワード*1で周知して共有することを行っています。事例が蓄積されていけば、ルール作りまで提言できるかなと思っています。まずは、生成AIの活用の事例がまとまってきたら、協会としておすすめする活用事例を出そうかという構想はあります。

*1 会員病院の優れたDX事例を表彰する「日本病院DX推進協会アワード」を年に一度開催。2025年度は武蔵ヶ丘病院(熊本・熊本市)のRPAや生成AIを活用した、入院患者の発熱・排便状況確認作業や看護師のシフト作成等の取組みが最優秀賞を受賞した。

佐伯:生成AIに関しては、多少、現場での活用が先行している面もあるので、協会としてガイドラインも早めにお示ししたいですね。

石川:おそらく今年は医療現場で生成AIの活用が非常に進むと思うので、タイムリーに現場で使えるものを提供できればと思っています。

「生きた事例」の共有と
企業連携のハブとして病院DXを支援

―DXに関しては、まだ試行錯誤の病院も多いので、協会から発信される情報は現場にとって大いに参考になると思います。ほかにはどのような活動を予定されていますか。

篠原:今後、病院は規模によって担う機能がより明確に分かれてきます。地域のなかで、在宅連携や病病連携、病診連携などの強化が必要な病院もありますし、急性期病院のように回転を上げていくことが重要になる場合もある。そこでの様々なDXを活用した事例をお知らせして、自院の立ち位置に近い事例を参考にしながら「まずはここからやってみようか」と思ってもらえるようにしていきたいです。

石川:「DXをどこから着手していいかわからない」という声や、「スマホを入れたけど結局電話代わりになっている」という話は私たちもよくお聞きします。そういうなかで、経営者、システム担当者、現場の医療従事者といった様々な立場の方が、それぞれの視点で進め方のイメージが持てたり、取組みの動機づけになるような事例を共有していきたいですね。

そのほかにも、単に企業から製品を購入するのではなく、企業に伴走してもらいながらDXを推進していける道筋を、協会で作ることができればと思っています。

―協会では企業会員の区分を設け、企業も活動に参画できる仕組みにしている点が特徴的ですよね。

篠原:時間・コスト・現場定着への負担を抑えるために、すでに社会で実装されているものを病院に取り入れやすくしたかったというのがあります。また、イノベーションを起こすには、様々な企業の多様な技術の組合せも重要だと思ったので、多くの企業が参画しやすい形にしました*2

会員が参加する懇親会などでは、病院関係者と関係を築いてマッチングできたりもしますし、企業にもどんどん参加してほしいと思っています。
*2 企業会員は入会費2万円、年会費無料で参加可能(2026年4月時点)。

―病院会員になると、個別に相談もできるのでしょうか。

佐伯:はい。メールなどで個別に受けています。DXを前向きに考えられている病院さんからは、進め方や技術的なことなど幅広い質問をいただきますね。

―リソースが限られている病院も多いと思いますし、実際のご経験や豊富な知見に基づいた助言が受けられるのは、心強いですね。
協会では今年4月に新たな試みを予定されているとお聞きしました。

篠原:看護・医療系学生さんを対象にしたDXスクール(JHDXA病院DXスクール)を開校します。これは、病院でのスマートフォンや生成AIを使った業務管理や記録の作成を体験し、最新の技術がどのように現場に取り入れられているのか、実感してもらおうという企画ですが、ICTや生成AIに親しんできた若い世代に「こういうところで働きたい」と思ってもらうのが狙いです。

これまで就職先を選ぶ際は、病院の希望や症例数、実績などが大きな要素となっていましたが、これからは「働きやすさ」がポイントになってくると考えています。裏を返せば、病院はいち早く投資して働きやすい環境を整えることが、生き残るためには重要ということです。
まずはHITO病院で実施しますが、全国の会員病院でも展開できるようにしていきたいですね。

DXは社会の変化に対応する経営改善

―病院にとってDXへの取組みは、今後どのような意味を持ってくるでしょうか。

石川:2026年度診療報酬改定におけるICT等の活用による人員配置の緩和は、今回初めて導入された考え方です*3。これはICTや生成AIで医療従事者の業務効率化や負担軽減を図りながら、必要な医療機能を確保していく病院を評価していこうという、国のメッセージだと受け止めています。

限られた人数で、安全性や医療の質を落とすことなく、需要に応えていく。それには業務の進め方や組織のあり方を見直していくDXが不可欠です。DXの取組みは、私たちが経験したことのない社会構造の変化に、いち早く対応していくための一種の経営改善だと思っています。
*3 2026年度診療報酬改定において看護師および医師事務作業補助者については、ICT機器等の活用による業務効率化・負担軽減を前提に、人員配置基準の柔軟化が図られている。
看護業務では見守り・記録・医療従事者間の情報共有にICTを組織的に活用した場合、入院基本料等における看護要員配置基準が1割以内の減少まで容認される。
医師事務作業補助者については、生成AIや医療文書用音声入力システム、RPAによる入力の自動化、10種類以上の患者向け説明動画の導入等により、医師事務作業補助体制加算における医師事務作業補助者1人を最大1.3人として配置人数に算入できる。

―DXをコストではなく投資ととらえ、変化する社会に対応していく。今日は病院が生き残るための戦略として、DXを認識できるお話をうかがうことができました。
協会では現在も多くの病院の参加を募っているとのことですが、会員病院が増えれば共有できる悩みや成功事例も増えるので、DXをさらに進めたい、あるいは行き詰まりを感じている、といった病院はどんどん参加してほしいですね。
 今後も病院DXを後押しする活動を期待しています。本日はありがとうございました。

(了)

(聞き手:SOMPOリスクマネジメント 関 悠希)

*一般社団法人日本病院DX推進協会では、2026年10月9日(金)に総会を開催します。詳細は協会ホームページをご覧ください。



ご協力:一般社団法人日本病院DX推進協会 (敬称略・順不同)

石川 賀代

一般社団法人日本病院DX推進協会代表理事/社会医療法人石川記念会HITO病院理事長/石川ヘルスケアグループ総院長

篠原 直樹

医師。一般社団法人日本病院DX推進協会事務局長・理事/社会医療法人石川記念会HITO病院CXO・CHRO

佐伯 潤

一般社団法人日本病院DX推進協会/社会医療法人石川記念会HITO病院DX推進室室長

一般社団法人日本病院DX推進協会

病院のDXを推進し、医療サービスの質向上と効率化を図ることを目的に2024年に設立。会員は病院会員、協賛会員(教育機関・団体等)、企業会員の3種類。
情報発信や講演会等の開催、病院・企業間連携を促進させるフレームワークの構築、各種ルール作り等に取り組むほか、「日本病院DX推進協会アワード」を年一回開催するなど、多岐にわたる活動を行う。2026年4月末時点で会員数185。

社会医療法人石川記念会HITO病院

愛媛県四国中央市に所在する病床数228床の急性期機能を有するケアミックス病院。職員へのiPhone貸与やチャットツール、生成AI等の活用をいち早く進め、医療現場におけるDXの実装に取り組んできた。これらの取組みは、病院DXの先進事例として、DXに取組む多くの病院のモデルとなっている。

<一般社団法人日本病院DX推進協会に関するお問合わせ>
〒101-0052
東京都千代田区神田小川町1-9-9-201
TEL:03-5244-5141
E-mail:koho〔アットマーク〕hdxa.onmicrosoft.com
(※〔アットマーク〕は@に置き換えてください。)

本記事に関するお問い合わせは、こちらよりお願いします。

医療機関向けサービスに関するお問い合わせ