医療現場を変えるアイデア
新しい働き方を探して
Vol.3

患者の安全をテクノロジーで守る顔認証システム

NECソリューションイノベータ株式会社「Bio-IDiom KAOATO」

取材日:2025年7月23日




人の往来や出入り口が多い医療機関で、いかに安全を担保するか。
離院防止や入退室管理で高度なセキュリティを実現する顔認証パッケージソフトウェアについて、
NECソリューションイノベータの皆さんにお話をお伺いしてきました。

Bio-IDiom KAOATO(バイオイディオム カオアト)

データベースに登録した顔画像と、カメラが捉えた顔画像を高速・高精度に自動照合するシステム。
入退室管理・本人確認等の用途で使用されている。
(本稿では以下、KAOATOと表記)

離院の賠償事例が導入きっかけに

―出退勤管理やロック解除、決済など、今や顔認証技術の活用範囲は広いですが、本日は離院対策と入退室管理での活用を中心にお聞きしたいと思います。

 離院*1対策では、あらかじめ患者さんの顔の画像を登録しておくことで、患者さんが出入り口を通過すると、カメラに映ったデータと登録データが照合され、離院を把握することができます。

 医療機関では、どのようなきっかけでKAOATOを導入されるのでしょうか。

*1 入院患者が医療機関の許可なく院外に出てしまうこと

 

 何らかのシステムを更新するタイミングで、一緒に解決できる課題はないか、ということで検討されるケースが多いですが、実際に離院が起きて大変な事態を経験したとか、離院に関する他施設の損害賠償事例を見聞きして、ということもありますね。

 高次脳機能障害や認知症など、離院のリスクが高かったり、離院時に捜索が難航するような患者さんが多い病棟で使われています。



顔認証の仕組み。データベースと照合し、対象となる人物を特定する。



―離院の結果、患者さんの身の安全に影響があれば、医療機関の責任が問われる場合もありますしね。
 RFIDタグやビーコンを使った離院対策もありますが、顔認証が選ばれる理由はどこにあるのでしょうか。

 RFIDタグもビーコンも患者さんに装置を付けて使用するので、患者さんが装置を外してしまったり、身に付けることに抵抗を示される場合があります。その点、顔認証は患者さんに何も付ける必要がないというのが大きなメリットかと思います。
 また、RFIDタグやビーコンは、患者さんの位置情報が点で表示されるのみですが、顔認証はカメラで確認できるので、お見舞いに来た家族を送りに行っただけなのか、本当に院外に出ようとしているのか、あるいは出たのか、というように、詳細な状況を把握した上で行動できます。

―結局、「見に行かないと分からない」となれば、導入効果は実感しにくいですよね。患者さんの行動を必要以上に制限することなく、効率的に動けるのはよいですね。

パトライト製信号灯、モニター、ナースコール。 多様なシステムとの連携で速やかに把握

―離院を検知してから通知が届くまでの流れを詳しく教えてください。

 標準仕様では、カメラが患者さんを検知すると、パトライト製信号灯の点灯や、医療従事者や警備室のモニターにポップアップで通知されるようにできます。ポップアップでは、顔の画像や名前が表示されますが、真っ赤な通知なのでかなり目立ちます。
 別途作業が必要ですが、ナースコールと連携させてPHSやスマートフォンに通知を出す、電子カルテと連携させて、カルテを同時に参照する、といったこともできます。



離院検知後の流れの一例。通知方法や連携させるシステムは選択可能。



 また、弊社では医療機関向けのコミュニケーションアプリを提供していますが、病棟や警備室などの関係者でグループを作っておけば、離院を検知した瞬間にグループチャットに画像をセットで通知し、関係者間で即座に連携を取って対応に当たることも可能です。



同社が提供するコミュニケーションアプリ
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/ncs/index.html



発見までに14分の差

―多様なシステムと連携が可能なのもKAOATOの特長の一つですね。気になるのは実際の導入効果です。

 ある病院で、弊社の複数の社員が患者役となり、KAOATOを使用した場合としなかった場合で、離院から患者発見までの時間を比較検証しました。
 現場の医療スタッフには誰が離院するのかは明かさない状態で、抜き打ちで救急口から患者役が院外に出たのですが、KAOATO使用なしでは、駐車場の陰にいた患者役を発見するまでに17分、KAOATO使用あり(救急口のカメラで顔認証)では、発見まで3分でした。

―17分あれば徒歩でもかなりの距離を移動することができますし、タクシーにでも乗っていたら、より捜索が困難になりますよね。どこで差がついたのでしょう。

 やはり離院に気づくまでの時間ですね。離院を検知するシステムがないと、「あれ、○○さんいない?」というところから始まるので、初動が遅れる。KAOATOを使用したバージョンでは、救急口で患者さんを顔認証で検知後、警備員さんや病棟の看護師さんのPHSに連絡がいくフローにしていたので、すぐ捜索にかかれました。

―実際に導入された施設からはどのような反応がありましたか。

 離院自体の頻度は多くないかもしれませんが、一度発生すると捜索に多くの人手や時間が割かれます。すぐに見つからなければ、施設内の問題にとどまらず、警察やタクシー会社などにも連絡を取るなど、地域を巻き込んだ大騒動になります。さらに、現場の職員の方には不安や心配といった精神的なプレッシャーもかかります。
 KAOATOで早期に患者さんを発見することができ、それらが解消されたのはよかった、というお言葉をよくいただきます。ご家族からも不安が軽減されるとの声があるようです。

監視されている印象は与えない。設置の仕方にプロの妙

―設置するカメラの台数や設置場所については、助言いただけるのでしょうか。

 はい。どのタイミングで離院を検知したいか、ヒアリングをして効果的な設置場所をご提案します。救急口だけ押えておけばよいケースもあれば、出入り口が複数ある大きな病院などでは、各フロアのエレベーター前で検知できた方がよい場合もあります。
 カメラの取り付け箇所については、顔認証の精度に大きく影響するので重要です。正確に漏れなく患者さんを識別できるように、どういう向きでカメラを設置するのか、綿密に検討して、何度も調整を繰り返します。
 また、カメラが目立つと監視されている印象を受ける方もいるので、離れたところからでも捉えられるよう、設置の仕方なども工夫します。

―ただカメラを取り付ければいい、というわけではない。貴社の長年のノウハウが発揮される部分ですね。
 気になるのがプライバシーの問題です。どのような点に留意が必要でしょうか。

 非常に大切な点です。「顔」という個人情報を活用することになるので、同意を得ることが必ず必要になります。
 医療機関側でご本人やご家族に使用目的を説明して、理解いただいた上で、同意書等にサイン等をもらい、同意を得るのが前提となります。

認証率99.9%の高精度。キャップ、ゴーグル、マスク着用でもOK

―入退室管理ではどういったエリアで使われているのでしょうか。


 サーバルームは結構多いですね。あとは、薬剤管理室や手術室、医局、更衣室など、関係者以外立ち入り禁止のエリアであれば、幅広く使われています。
 手術室などは、手を使わずに入室できるため、衛生面でも評価いただいています。



手術室での使用事例(中央上にあるのがIPカメラ、右にある黒い端末が顔認証専用端末)。
立ち止まらずに入室させることも、端末に顔をかざして一人ずつ入室させることも可能。



―医療機関は患者さんの安全に直結するものに取り囲まれているので、幅広いエリアで使われているのは納得ですね。
 ところで、KAOATOはマスクをつけたままでも認証可能ですが、それも医療機関にはふさわしい点ですよね。


 マスクに対応した顔認証は珍しくないですが、KAOATOで使用されているNECの顔認証エンジン「NeoFace」は、マスク着用でも認証率99.9%と、精度が高いのが特長です。
 実はKAOATOは虹彩認証機能を搭載したマルチモーダル端末と連携可能なので、ゴーグルやサージカルキャップなどを着用した状態でも認証できるんです。きわめてクリーンな衛生環境が求められる、食品や半導体の工場でも採用されているんですよ。右目、左目、顔の3つの生体認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証*2ができるのも特長です。
 *2 顔と虹彩、指紋と指静脈など、二つ以上の生体認証を組み合わせる認証方式



顔と左右虹彩、3つの特徴による認証



ウォークスルー認証でストレスフリー

―認証精度といえば、米国国立標準技術研究所の顔認証の精度評価*3で、長年に渡り何度も1位を獲得されていますね。セキュリティに関連するところなので、精度は製品を選択する際のポイントになると思います。
 KAOATOの精度について、もう少し詳しく教えてください。
 *3 米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストで、これまでにNo.1を複数回獲得。
   https://jpn.nec.com/biometrics/evaluation/index.html
   ※NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません。


 KAOATOは、立ち止まらずに認証する、いわゆるウォークスルー認証が可能ですが、これは、カメラの正面に顔を向けなくても色々な角度で認識ができること、一度に多人数を認識できること、認証のスピードが速いことを意味します。認証スピードは認証開始から照合まで1秒以内です。  
 さらに、一定の認証条件を満たして本人と判断された顔画像は、自動で追加登録されるので、経年変化にも対応できるんですよ。


―医療現場では急いで移動する場合なども多いので、スピードは重要ですね。使いやすさという点でも優れた製品だと感じました。
 経年変化にも対応できるのには驚きました。確かに年月による変化もそうですし、化粧や疲れなどでも顔の印象は大分変わりますので、認証精度を保つ上では大事ですね。

患者誤認防止、二要素認証…広がる可能性

―離院対策と入退室管理以外では、どのような使われ方があるでしょうか。


 入退室管理に似たような感じですが、診察や検査の呼び出しで、部屋の入り口に読み取り機を設置し、そこに来た患者さんが、呼び出しされたご本人かどうか照合する、というように患者確認に使用することもできます*4
 そのほかには、医療者が電子カルテなどのシステムを利用する際の二要素認証で、顔を認証要素に用いることができます。どちらもすでに導入事例があります。
 *4 利用目的や個人情報の扱いについて予め周知や同意等が必要


―医療機関では今後、医療情報システムを利用する際は二要素認証が求められるようになるので*5、需要は多そうです。
 患者確認に関しては、最終的には患者さんご本人に、氏名や生年月日を名乗ってもらって本人確認をすると思います。とはいえ、聞き間違い等で別の患者さんが入室してしまったり、何らかの事情で本人確認の手続きにエラーが生じることもあるので、より確実な患者確認につなげる意味でも有効だと感じました。
 これは病室での患者確認にも使えますか。
 *5 厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」では、「利用者認証にパスワードを用いる場合には、令和9年度時点で稼働していることが想定される医療情報システムを、今後、新規導入又は更新するに際しては、二要素認証を採用するシステムの導入、又はこれに相当する対応を行うこと。」とされている。


 はい。入院患者さんに対する日々の与薬や配膳場面での患者確認でも活用可能です。ノートPCやスマートフォンを病室に携帯するのであれば、それらのカメラで本人確認をすることができます。
 また、KAOATOは様々なハードウェアと連携できるのが強みですので、スマートグラスで本人確認をすることも可能です。


―スマートグラスでどのように確認するのですか。


 スマートグラスにも色々な形がありますが、メガネタイプのレンズ部分や、専用の小型モニタに認証結果や関連データを表示させることができるんです。医療機関ではないですが、厳格に入場管理をしなければならない施設で、入り口の警備員さんがスマートグラスをつけて、来館者の本人確認をしている実証事例があります。
 スマートグラス自体は医療現場でも遠隔医療などで使われているので、違和感なく導入できるのではないでしょうか。


―自ら名前を名乗るのが難しい患者さんや、コミュニケーションが上手くいかない場合などにも重宝しそうです。スマートグラスを着用すれば、ハンズフリーで作業をしながら確認ができるのもメリットですね。

手持ちの資産を活用し、導入コストを抑制

―KAOATOを導入するにあたって、必要な設備を教えてください。


 必ずしも当社で指定する機材や設備を導入する必要はありません。まずは、既存の資産が有効活用できないか、というところからご相談させていただいています。
 カメラにしても、既設のネットワークカメラが使える場合がありますし、入退室管理では、ドアの横にタブレットを掛けて内臓のカメラを使ったり、単純にパソコンを置いてそのカメラで認証するといったことも可能です。もちろん、適当なものがなければ、用途に合った端末をご紹介します。
 そのほかに、サーバを新設するケースもありますが、いずれにせよ、当社はお客さまの課題解決のために、企画、導入、運用等を一貫して請け負うSIerですので、興味をお持ちいただいた段階で、お気軽にご相談いただければと思います。



認証に使用する端末の例。
左から、顔と虹彩を用いた認証が可能なもの、顔認証専用端末(画面あり)、顔認証専用端末(画面なし)



―資産を活用して導入費用を抑制できる可能性があるのは魅力的ですね。その他に、導入時に必要な費用やサービスの料金体系を教えてください。


 離院のところで少し触れましたが、ナースコールや電子カルテなど、システムに連動させる場合は別途費用が発生します。あとは、一度導入してしまえば、オンプレミス(買い切り型)なので、月額利用料はかかりません。


―定期メンテナンスの必要などもないのでしょうか。


 必要ありません。ただ、当然、保守サポート体制はありますので、お困りごとがあればいつでもご相談いただけますし、製品のバージョンアップなども継続して提供しています。

ネットワーク障害時でも使用可能

―ネットワーク障害が起きた場合はどうなるのでしょうか。とくに急に入室できなくなると現場は混乱するのではないかと思いますが。


 専門用語で縮退運用*6というのですが、入退機能については、サーバのデータベースにアクセスできない状況でも、認証端末にセキュアに保存された情報を使用して、運用を継続することが可能です。
 ネットワークが途切れても、片側(認証端末)だけで認証ができるようになっているんです。障害時の認証記録も端末に一時保存されるので、記録の欠落が生じません。
 *6 システムや機器に障害が発生した際に、機能を制限したり、別の方式に切り替えることで、使用可能な状態を継続すること


―システムを導入する際は、障害発生時のトラブルが懸念されるところですが、代替策があるとのことで安心しました。

 最後に、KAOATOは医療機関の安全性を向上させる素晴らしい製品だと感じましたが、経営が逼迫する医療機関も多いです。費用対効果をどのように考えたらよいでしょうか。


 「離院対策」「入退室管理」等、単体の目的で導入を考えると、割高に感じるかもしれません。顔認証は本日ご紹介したように、二要素認証だったり、患者さんのご本人確認にも活用できます。ほかにも、出退勤管理にも使えたりと使い途は多様です。活用の幅に目を向ければ、むしろコストパフォーマンスに優れていると感じていただけるのではないかと思います。

―何より、何かが起きてからでは遅いですからね。管理された環境で静養が必要な方が滞在する場所であり、医療機器や薬品、個人情報といった貴重な資産が多く存在する医療機関だからこそ、セキュリティへの先行投資の重要性を感じさせられました。

(聞き手:SOMPOリスクマネジメント 医療・介護コンサルティング部 関 悠希)




ご協力:NECソリューションイノベータ株式会社 (敬称略・順不同)
医療ヘルスケア・スマートシティ事業部門 医療PDソリューション統括部
 プロフェッショナル 豊島達也
DXテクノロジー事業部門 生体認証・映像統括部
 主任 瀬川幸治
 主任 上野順子


NECソリューションイノベータ株式会社
1975年設立(2014年NECソリューションイノベータ発足)。 NECグループの社会価値創造をICTで実現する中核企業。社会基盤をICTで支えるとともに、企業価値向上や社会課題解決に貢献するSI・サービスを全国で提供している。

<Bio-IDiom KAOATOに関するお問合わせ>
DXテクノロジー事業部門 生体認証・映像統括部
Bio-IDiom KAOATO担当 kaoato〔アットマーク〕nes.jp.nec.com
(※〔アットマーク〕は@に置き換えてください。)

本記事に関するお問い合わせは、こちらよりお願いします。

 

医療機関向けサービスに関するお問い合わせ