国内の風力発電設備倒壊事故と制度の変遷 ~直近の倒壊事例を踏まえて~

エネルギー(安全管理審査/再エネ)

2023年5月11日

リスクマネジメント事業本部
リスクソリューション開発部

再生可能エネルギー・インフラグループ 上席コンサルタント

戸田 邦彦

2023317日、青森県六ケ所村の風力発電設備(以下、「風車」という。)が1基倒壊したと新聞各社が報道している。経済産業省も現地調査に入っているとのことで、事故原因の調査が進められている。調査結果をふまえて事故原因が審議され、事故原因に基づく再発防止策も併せて議論されるものと推測される。

これまでに国内で風車が倒壊・座屈した事例は他にもあるが、ほとんどは台風通過時である。しかしながら、今回風車が倒壊した日にはそのような強風は吹いておらず、設置者の報告によれば、タワーの溶接部において「広範囲にわたり内外面を貫通する疲労亀裂(推定)や外面の発錆、内面の塗装割れが確認されている」[1]とのことであり、これまでの多くの風車倒壊事故とは全く原因が異なる。設置者の報告を受け、経済産業省は同じ型式の風車を設置している事業者に対して緊急点検の実施を要請しているが、今後どのような再発防止策が検討され、どこまで水平展開されるのか、事故のリスクを一定引き受ける保険会社にとっても注目する事例と言える。本稿では、これまで発生している風車倒壊の事例と今回の事故の特異性を比較しつつ、風車に関する技術基準や安全対策の推移について整理する。

 

今回の事故に限らず、これまで国内ではいくつかの風車倒壊事故が発生しており、その度に経済産業省の新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ(以下、「構造強度WG」という。)で事故原因が議論され、再発防止策が検討されてきた。これまでの国内における主要な風車倒壊事故を表1にまとめる。

表1 国内の風車倒壊事例(脚注[1]~[6]の内容を当社にて整理)

発生年月 所在地 風車機種および倒壊に至った経緯
2003年9 沖縄県宮古島

風車:NEG-Micon社製(400kW/100kW)および

   Enercon社製(500kW

台風通過時、系統が停電。制御喪失状態で強風を受け、3基倒壊、4基ブレード折損など。
2007年1 青森県下北郡

風車:Bonus社製(現Siemens1.3MW

低気圧発生時に、取り付け不備によりパーツが脱落、風車が過回転を起こしたため基礎に過大な荷重がかかり、基礎を破壊して倒壊。
2016年9 鹿児島県肝属郡

風車:日本製鋼所社製(J82-2.02.0MW

台風により、2基座屈、2基ブレード折損。ヨーモータが過負荷となりブレーカーが遮断、ヨー制御ができなくなり、ブレードの角度も変化、共振や荷重増大によりタワー座屈。
2018年8 兵庫県淡路島

風車:三菱重工業社製(MWT-S600600kW

事故の1年前より故障のため運転停止中、撤去予定であった。長期間の電源供給停止により油圧抜け、フェザリングおよびヨー制御喪失、過回転状態になり、荷重増大、基礎鉄筋破断、倒壊。
2018年9 和歌山県日高町

風車:Enercon社製(E-82 E11.99MW

台風通過時に停電、制御停止状態において、風向・風速が変化。1基タワーが座屈、倒壊
2020年10 長崎県鷹島

風車:Shanghai Ghrepower社製(19.7kW、小型風車)

基礎部フランジにおける溶接継ぎ目の食い違いにより応力集中し、亀裂が発生、疲労破断。

20233

(今回)
青森県六ケ所

風車:General Electric社製(GE1.5s1.5MW

タワーの溶接部において「内外面を貫通する疲労亀裂(推定)や外面の発錆、内面の塗装割れが確認」されている。

 

1を見ると、一見多くの風車倒壊事故が台風や強風に関連しているように見えるが、損傷・倒壊の経緯を詳細に見ていくと、単に台風の風によってタワーが倒れたのではないことが分かる。風車はカットアウト風速[7]を超えると、ブレード(風車の羽根)の角度を風向きと並行に調整(ピッチコントロール)して風を受け流し、風車が回転しない(フェザリング状態という)ように制御している。あるいは羽根を失速(ストール)状態にしてナセル[8]を風向きに直角に向けるストール制御を行って風を受け流すように設計されている。しかしながら、宮古島や淡路島、日高町の倒壊事例では、停電や電源供給停止により風車の制御が効かない状態において強風を受け続け、タワーの倒壊に至ったとされている。鹿児島県の倒壊事例も、ブレーカー遮断によってヨー制御[9]が不可能となったことから過大な荷重を受け、過回転等によって倒壊したとしている。このように、台風・強風時に倒壊した風車は、いずれも倒壊前に風を受け流す制御を失った状態において強風を受け、想定外の荷重を受けて倒壊したことが分かる。

 

次に、今回の倒壊事故と似た事例として、小型風車ではあるが202010月に発生した長崎県における中国製風車の倒壊事故がある[5][6]。この小型風車が倒壊した際には強風は吹いておらず、また上記のような制御機能の喪失や風車の故障などは起きていない。メーカーによる原因究明と経済産業省の構造強度WGで審議された結果、原因はタワーの溶接部の目違いにおいて応力集中して亀裂が発生、疲労破壊に至ったと判断されている。再発防止策としては、メーカーにおける製造時の検査項目や設置後の点検などが提案されている。

 

今回起きた青森の倒壊事例では、小型風車の事例のような溶接部の目違いは指摘されていないが、「タワーの溶接部において破断が生じており」、「広範囲にわたり内外面を貫通する疲労亀裂(推定)」[1]が確認されている。亀裂の起点が発生した要因は異なる可能性があるものの、疲労と推定されていることは長崎の事例と共通している。

その他に「外面の発錆、内面の塗装割れが確認されている」[1]とのことであるが、もともと溶接部は溶接材料の化学的特性や形状が凸凹であることなどから、他の部分に比べて塗装が劣化、剥がれやすい傾向がある。今回の風車のような100mのタワーに対して、しかも同ウィンドファームの22基の風車に対して、溶接線をくまなく点検し、塗装を塗り直すことが容易でないことは想像に難くない。しかしながら、風車に限らず構造物の維持管理において、構造部材の劣化や減肉防止のために溶接部の塗装・メンテナンスは重要である。溶接部の亀裂や塗装についてではないが、長崎の事例においても風車設置後の点検やメンテナンスについて議論されている。

 

以上の倒壊事故に限らず、これまで発生している風車事故事例を受けて、経済産業省は「発電用風力設備の技術基準の解釈」を発行(2014年発行、以降5回改正)し、そのなかで停電時の電源や制御可能状態の確保などを求めてきた。また、20192月には日本の風車研究者によって風車の国際的な設計基準であるIEC[10]に耐台風クラス(Class T)の追加が提案されて取り込まれるなど、台風対策が行われてきた。台風や強風以外にも、国内において風車損傷の大きな要因となっている落雷に対しても、耐雷性能を持つように要求が加えられてきた。これらの取組みにより、洋上風力発電も含めて今後国内に導入される風車は台風をはじめとする災害に対する耐性が向上したものになり、風車事故が低減していくことが期待されている。

こうした技術基準の経緯のなかで、直近の2件の疲労破断(推定を含む)は、2018年までの台風・強風時の倒壊事例と倒壊に至る原因やプロセスが全く異なる。そのため、これまでとは異なる対策が求められることが考えられ、経済産業省の発表でも「風車の検査方法の見直し等」の可能性が示唆されている[1]

 

また今回の風車は設置から19年以上経っているものであり、一定老朽化が進んでいたことも推測される。2018年の淡路島の倒壊事例は制御不能状態において台風が直撃したものであるが、それ以前に撤去計画やそれまでの維持管理が適切でなかったことも議論された。近年、多くの風車が設計寿命を迎えるなかで、事業者には老朽化する風車を適切に維持管理し、かつ撤去費用を計画的に確保することが求められる。

 

風力発電事業はこれまで欧州で先行してきたため、風車は欧州メーカーが多く、特に大型風車においては新規に製造している国内メーカーは現在残っていない。そのため、日本特有の気象条件に合った風車の開発が進んで来なかったことが、これらの事故の背景にあると考えられる。日本における風力発電事業には、台風や強大なエネルギーを持つ冬季雷、大きな風向変動など、日本特有のリスクを加味した防災技術の導入が欠かせず、これまで技術基準の制定やClass Tの追加などの取組みを通して、これらのリスクへの耐性は一定向上してきた。一方で、これらの基準が策定される前に設置された風車には、対策が取り込まれていないものもあり、リスクが高いものが残っていると考えられる。

 

今回の風車は高さが100mあるものであり、近年は更なる風車の大型化が進んでいる。大きな風車が倒壊した場合には、周囲への被害のみならず、社会的に影響を与える可能性も否定できない。今回の事故原因究明および審議が待たれるところであるが、それらの結果、どのような設計・製造あるいは維持管理や検査方法などについて見直しが検討されるのか、引き続き動向が注目される。事業者や専門家に限らず、保険会社にとっても、新しい形態の事故は防災技術を向上させるための最も重要な教材となる。事故に携わる私たちとしては、今回の事例も含めて教材を有効活用し、日本の風力発電事業のさらなる普及・拡大に貢献していきたい。

 


[1] 経済産業省、風車を設置する皆様へ。
  六ケ所村風力発電所で発生した風車の倒壊事故を踏まえ、風車の点検について必要性の検討をお願いします

  https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230407002/20230407002.html
  (アクセス日:2023-4-26

[2] 経済産業省、新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ

  https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/index.html
  (アクセス日:2023-4-18

[3] 経済産業省、台風14号による風力発電設備の倒壊等事故調査報告について(概要)

  https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2004/files/161125-1.pdf
  (アクセス日:2023-4-27

[4] 経済産業省、岩屋ウィンドファーム発電所11A号風車 倒壊事故について(中間報告概要)       
  https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2007/files/190206.pdf
  (アクセス日:2023-4-27

[5] 経済産業省、第29回産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会、

  新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ   
  https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/029_01_00.pdf

 (アクセス日:2023-4-18)

[6] 経済産業省、第31回産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会、

  新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ
  https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/031_02_00.pdf

  (アクセス日:2023-4-18)

[7] 発電可能な最大風速

[8] タワー上部に取り付けられ、主軸・増速機・発電機などが格納される箱

[9] 風向きに対して風車の向きを変える制御

[10] International Electrotechnical Commission(国際電気標準会議)

戸田 邦彦

リスクマネジメント事業本部
リスクソリューション開発部

再生可能エネルギー・インフラグループ 上席コンサルタント

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