海外進出する企業に求められる危機管理について――ラマダン期間中のテロの脅威

危機管理

2017年6月20日

リスクマネジメント事業本部
ERM事業部

海外危機管理グループ 主任コンサルタント

市川 亮輔

企業が海外への進出を加速させ活動範囲を広げていく中、昨今イスラム過激派組織ISIL(イラク・レバントのイスラム国)(以下「イスラム国」)をはじめとするテロ脅威が高まっており、企業も個人も海外危機管理への対応が迫られている。 
特に約1ヵ月と長いラマダン*1期間中には注意が必要である。

ラマダン期間中にテロの可能性が高まる要因として、(1)モスクなどにイスラム教徒が多く集まりやすい、(2)説教者から西欧文化への増悪を聞く機会が増える、(3)ラマダンは過激派が資金を獲得しやすい時期である、といったことが挙げられる。この資金とは、いわゆるパレスチナのイスラム原理主義ハマースがラマダン期間中に信者たちから集まった献金を活動資金にしていることなどが背景にあると考えられている。

2016年のラマダン期間中には、バングラデシュのダッカで多数の日本人が犠牲になるという痛ましい事件が発生した。 
また、2017年に入っても、インドネシアのジャカルタやイギリスのロンドンおよびマンチェスターでの爆弾テロや銃乱射事件などが発生し、日系企業や海外出張者にとって、テロはもはや対岸の火事ではなくなっている。


表1 近年のラマダン期間中に起きた主なテロ事件

(出典:外務省 海外安全ホームぺージ(http://www.anzen.mofa.go.jp/attached2_master/2017C107_1.pdf)をもとに当社作成)

 

実際に、イスラム国に関連した組織の構成員向け刊行物「RUMIYAH」では、テロの実行方法(テロのマニュアルのようなもの)が書かれている。その中には、フェスティバル、ナイトクラブ、リゾート地やショッピングモールなど、人が集まるところを狙うことといったアドバイスも記載されており、ラマダン期間中には特にテロへの警戒心を高める必要がある。 
テロ事件はこれまで中東地域を中心に発生した事件が多くを占めていたが、近年は、フランス・パリでの銃撃などに代表されるように、欧米諸国や東南アジアなどへも広がりを見せ、「テロのグローバル化」の傾向にある。これは、フィリピンのアブサヤフなどをはじめとするイスラム国とも関連のあるテロ組織が世界各地で活動範囲を広げている現実も影響しているといえる。 
したがって、日本人にとって旅行・出張先あるいは多くの日系企業が進出する国・都市においても、テロの脅威が身近に潜在するということになる。

そのため、企業は渡航先国や地域に関して、可能な限り必要な情報を収集し、テロへの事前対策および発生時の対応準備などを徹底し、できる限り被害を受ける可能性をゼロに近づけることが求められる。 
具体的な対策としては、「ラマダン期間中の海外出張を極力控える(特にテロが過去に多発している国・地域など)」「同時期には特に外国人が集まる観光施設やレストランなどへの出入りを極力避ける」「不要不急の外出を控え、必要最低限の行動にする」などして警戒レベルを上げる方法がある。 
また、上記のような対応策に加えて、「安否確認体制の整備、危機対策本部の体制整備等危機管理体制の構築」→「テロ等に遭遇した際の初動対応フローの整理、安全対策研修及び実働訓練の実施」→「見直し・改善」といったように、段階的にリスクを低減する方法もあるだろう。その場合は、想定される爆弾テロ、政情変化、銃乱射事件、さらには企業脅迫などのケースごとに十分に対応策を講じておくとよい。

企業や個人も実際に起きてから考えるのではなく、遭遇しないために最大限どうするか、また万が一遭遇した場合の対処法を習得することが必要となる。近年では、それぞれの危機管理意識の醸成・見直しや有事を想定した訓練、平時における危機管理体制の構築・徹底が重要となっている。

*1 イスラム暦の9月にあたる月で、健康な人は日の出から日没まで飲食を絶つ決まりのことを指す。2017年度は5月27日頃~6月24日頃がラマダン月に当たる。また、ラマダン月終了後から6月27日頃までは、ラマダン明けの祭(イード)が開催される。

市川 亮輔

リスクマネジメント事業本部
ERM事業部

海外危機管理グループ 主任コンサルタント

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