大規模商業施設に求められる防災訓練

事業継続(BCM)

2021年9月24日

リスクマネジメント事業本部
BCMコンサルティング部

上席コンサルタント

竹腰 宏

ショッピングセンター(以下「SC」)などの大型商業施設の運営会社で実施している防災訓練は、主に地震や台風などの自然災害や、火災が発生したことを想定した避難訓練や消火訓練を年2回実施するのが一般的である。訓練に参加するのは、実際に災害や火災が発生したらその場に居合わせ、訪問客に対して避難誘導などをする必要がある関係者で、こうした参加者を集めて営業時間外に行われることが多い。

しかし、東日本大震災発生以降、SCにはただ訪問客を避難誘導するだけでなく、SC外から避難してきた周辺住民を収容する一時避難所としての機能や、帰宅困難者収容施設としての役割が求められるなど、SCに対する社会的な要求は高まっている。実際に東日本大震災では、被災地のSCが店長の判断で、1カ月以上にわたり被災者をSCに受け入れ、地域住民に感謝された事例があった。また、2020年に全国に感染が拡大した新型コロナウイルス禍では、避難所での感染予防策が求められるなど、これまでの来訪者や関係者の避難計画の見直しを迫られた。こうした状況下で、SCが災害や火災、感染症発生時に、的確に社会的役割を果たすためには、これまで以上に防災に力を入れ、あらゆる事象の発生を想定した対応計画を立て、それに基づいた訓練を実施することが必要不可欠となっている。

 

そもそも訓練の目的とは何か。SCにおける訓練の問題点は、単に「法律で定められているから」という理由で、訓練すること自体が「目的化」しているケースが多い点である。防災訓練の主たる目的は、災害発生時に一人でも多くのお客さま、スタッフなどの命・安全を守るためであることは言うまでもない。そのため、マニュアルを見ずに対応できるよう同じような訓練を反復し、スキルを習得することも目的の一つである。しかし、SCの災害時における社会的役割は増えており、各種事象を想定したマニュアルの有効性(例:マニュアルの内容、役割分担の確認など)の検証も考慮すべき重要な目的である。

 

SCを取り巻くリスクは、近年になって水害被害の甚大化が進むなど、変化している。これを受け、水害被害を想定したマニュアルの見直しや、新規策定に取り組んでいる運営会社もある。

また、複合災害への備えを強化している企業も多く、防災計画の見直しが進められている。さらに、東日本大震災の経験を踏まえ、災害時の避難所としての機能や、復興時に生活必需品を早急に提供するといった市民生活を支える重要な社会インフラととらえ、災害からの早期復旧、事業再開を目指す事業継続計画(BCP)活動に力を入れる運営会社も増えつつある。

防災計画を見直したりBCPを新たに策定したりしたら、対策本部訓練を行って実効性を検証し、実効性が担保されたら、運営会社や協力会社、テナントなどの関係者に役割分担や手順を広く知らしめるための訓練を実施する必要がある。

訓練には様々な実施方法があり、それぞれに特徴がある。誰を対象にどのような訓練を実施するかは、訓練の目的によって異なる。ここでは、異なる訓練手法やそれぞれの特徴について簡単に説明する。

 

表1 訓練の実施方法と特徴

訓練のやり方

特徴

実技(実動)

地震の揺れ体験、避難、消火器操作、安否確認システムの受発信、AED操作など、災害発生時の初期動作の訓練として、最も頻繁に行われているもの。

読合せ

規程やマニュアルなどの文書を、参加者で読み込み、記述内容を確認する訓練。文書の内容を理解したり、あるいは抜け漏れを見つけたりするのに向いている。マニュアルを読みながら現地・現物を確認する「ウォークスルー」といったやり方もある。

ロールプレイング

マニュアルなどで規定されている有事の各自の役割(対策本部長や事務局長、情報収集班長など)になりきって、訓練内で与えられた状況下でそれぞれその役割に期待される行動をする訓練。対策本部の運営を訓練することが多い。

ワークショップ

有事が発生した際の、あるべき行動や判断について共通認識を見出したり、危機対応上想定される課題を解決したりするのに向いている。参加者間での「議論」に主眼を置いた訓練。

 

対策本部の訓練と、SC(現場)での訓練では、目的や手法が異なる。それぞれの訓練の要点を「表2」に示す。

 

表2 対策本部・SCにおける訓練の要点

対策本部訓練

●多様な被災を想定し、発災時の状況を俯瞰的に把握しSCへ運営会社としての方針を出す

 ➡ワークショップ・ロールプレイング形式を推奨

●訓練結果を踏まえ、教訓や運営会社としての方針をSCに共有

SCにおける訓練

●営業時間の合間での短時間訓練でスキルを身に着ける必要がある

 ➡実動・読合せを推奨

●運営会社の方針を織り込み協力会社、テナントなどの関係者へ浸透を図る

 

訓練を実施する前には「表3」を参考に訓練計画を明確に立てることが重要である。

 

表3 訓練を計画する際の重要要素

 

訓練計画時の重要要素

訓練の目的・ねらいの明確化

 ➡何を目的に訓練をするのか

訓練対象者

 ➡目的を達成するには誰に参加してもらうのが最も有効か

訓練のやり方

 ➡参加者に目的を果たしてもらうためにはどのやり方が最も有効か

目指すゴールの明確化

 ➡訓練で参加者に何をどのレベルまで習得してもらうか(到達点)

 

訓練の計画がまとまったら、いよいよ実施となるが、感染症流行下では制約もある。2020年以降の訓練では、「オンライン」を活用する例が多くみられる。「読合せ」もオンラインで実施が可能である。

オンラインでの「ロールプレイング」訓練の方法としては、「表4」のような事例がある。

 

表4 オンライン訓練の選択肢

 

オンライン訓練の方法

完全オンライン

➡対策本部要員と事務局、関係部署、協力会社がオンラインで参加

 集合型・オンラインのハイブリッド

➡対策本部要員の一部と事務局は会議室に集合、その他のメンバーはオンライン参加

 

「ワークショップ」訓練は、社内外の参加者全員がオンラインで参加し、オンライン会議システム上で「別室」を設ける機能(例:Zoomのブレークアウトルーム機能)を使って、課題ごとに担当者をグループに分けてこの「別室」で議論し、最後にその結果を全体に共有するという方法で訓練を行っている企業もある。

 

運営会社、そしてSCとしては、新興感染症の発生など、リスクの変化、多様化、そして複合災害に備えて、平時から規程や計画を策定し、事前対策を実施して発災時のリスクを低減する必要があることは言うまでもない。そして、重要な社会インフラとして早期の復旧、事業の再開が求められる。運営会社としては今後も、防災、事業継続に向けた規程や計画に基づいて、各種訓練を行い、そのノウハウを習得・周知するなど、万全な備えが求められる。

竹腰 宏

リスクマネジメント事業本部
BCMコンサルティング部

上席コンサルタント

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