資金繰り表作成のススメ――withコロナにおける中小企業の資金計画

全社的リスクマネジメント NEW

2020年6月15日

リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部

GRC推進グループ 上級コンサルタント

松原 真佑子

今般の新型コロナウイルス感染症の影響により、資金繰りに悩む中小企業が増えている。災害時や金融危機の時も同じであるが、売上が一時的に激減する有事の際には、資金繰りはどうしてもひっ迫する。いざという時にすぐに判断できるように、資金繰り表は平時から作成して準備しておいていただきたい。今は困っていない企業でも、withコロナと言われる今後の状況では、売上が低迷する時期が長引く可能性がある。出来る限り先まで見通しを立てるために、1年から2年程度の資金繰り表を作成しておくことをお勧めする。

 

◆財務のBCP(業務継続計画)は、資金繰り表である

企業はどうなると倒産するか。赤字になったら倒産するわけではないというのはご存知のことと思う。赤字は一つの原因にすぎず、企業は資金が回らなくなったら倒産する。

売上が急激に減ってきたときや、今月の支払はできるか、来月はどうか、と考えたときに使うのが資金繰り表である。損益計算書や月次試算表などは、月ごとの損益(その月に儲かったのか損したのか)を判断するためのものであるが、例えば売掛金や手形で売上が計上される場合、現金は売上高と同額が入ってくるわけではない。仕入れの支払も同じである。現金そのものは、損益の計算とは異なる動きをしている。

資金繰り表は、大雑把に言って以下の図1のような構造をしている。一番上に月初の現金残高(期初なら前期末の損益計算書の「現金・預金」と同額)を置き、そこから順に入ってくるお金、出ていくお金、銀行からの借入や返済、の順に計算して、一番下に月末の現金残高が算出されるようにする。月末の現金残高は、そのまま翌月の月初の現金残高になる。

1 資金繰り表の構造

(出典:当社作成)

 

 

以下では、特に顕著な影響が出ていると言われる飲食店を題材として、実際に資金繰り表を作って検討する。

 

◆資金繰りのシミュレーション

資金繰り表における収入(入ってくるお金)には、大まかにわけて3種類ある。1つ目は売上がそのまま現金になる現金決済であり、これは売上と収入が同じ月に計上される。飲食店はこれが多い。レジで現金を払う人が多いためだ。

2つ目は、売掛金である。飲食店ならクレジットカード決済の売掛金などがあるだろう。これは、売上が上がった月の翌月か翌々月頃に現金となって振り込まれる。

3つ目は、手形である。支払いの時、または売掛金の決済として手形を振り出されると、手形サイトの期間にもよるが、3~4か月後に現金となる。個人向けの飲食店ではあまり扱うことはないと思われる。

資金繰り表では、これらを分けて計算する。つまり、例えば3月の売上が300(単位なし)だったとして、その90%が現金決済、10%が売掛金(支払サイト1ヶ月)、手形はないと仮定すると、3月の収入に270、4月に30が計上されることになる。このような形で資金繰り表を作ってみると、以下のようになる。

 

2 架空企業A社の資金繰り表

(出典:当社作成)

 

なお、図3の資金繰り表作成の前提条件は、以下の内容とした。

 

◆売上が減少したら手元資金はどうなるか:資金の見える化

資金繰り表が役に立つ一例が、売上が減少する局面である。今回の新型コロナウイルス感染症はその典型例である。急に売上が激減したとき、今月の支払には手元の現金で間に合うのか、来月の手元資金はいくらになるか、を見通せる。更に分析を進めると、来月は売上が激減する状況で営業したほうがいいのか、それとも休業したほうがいいのか、という判断をするための資料になる。

具体的にシミュレーションしてみよう。そのために、今回想定する架空企業A社が新型コロナウイルス感染症の影響で、以下のようにダメージを受けたと想定する。

  • 架空企業A社の有事の想定

⇒ 3月~5月の間、休業(雇用調整助成金を申請して受給する)

 ・3月~5月の売上はなし

 ・3月~5月の仕入もなし 

 ・人件費は休業手当を出すこととする(休業手当は6割とする)

 ・休業手当に対して雇用調整助成金を申請する(支給は3か月後と想定)

 ・雇用調整助成金の助成率は9割(中小企業の特例)とする*1

 

前述した前提条件として、売上原価を売上に応じて変動する変動費としたので、売上がゼロとなったら売上原価もゼロになる。休業した期間は黄色に塗色した部分である。一方、固定費とした販売費・一般管理費は変わらない。その結果、資金繰り表は図 3のようになる。

3 A社の資金繰り表のシミュレーション(3か月休業)

(出典:当社作成)

 

図 3では、5月に現金残高がマイナス(5月の一番下の欄に「-111」とある)になってしまっている。これは、資金繰りが行き詰まることを示している。その後、雇用調整助成金の受給によって現金残高はプラスに戻るが、一時的でもマイナスになると資金は回らない。そこで、ここには借入を行うなどの対策が必要になる。借入を行う際には、信用保証協会によるセーフティネット保証や危機関連保証の制度等が発動しているので、経済産業省や中小企業庁の最新情報も確認いただきたい。一般保証の枠とは別枠で信用保証協会による保証を受けられる。*2

そのほかに、借入金の返済を止めることも考えられる。現在、銀行等の金融機関に対しては、つなぎ融資や返済猶予等の相談に応じるよう金融庁が要請している。災害時やリーマンショックのような経済不況時には、このような要請が行われることが多い。そこで企業としては、取引先金融機関に相談して返済を猶予してもらうことが考えられる。例えば、5月から1年間、支払いを猶予してもらい、それでも不足する分をつなぎ融資で借りて、つなぎ融資分は12月に返済すると仮定すると、図 4のようになる。

4  A社の資金繰り表のシミュレーション(3か月休業、5月に借入)

(出典:当社作成)

 

青い部分が借入金である。5月を何とか乗り切って、6月から売上が元に戻るのならば、この110の借入金でしのげることがわかる。このようなシミュレーションを有事の際にスムーズに行うためには、平時から、年度初めなどに1年間の資金繰り表を準備していただくと良い。そうすれば、売上の減少が見込まれた時点で、何か月後にいくら借り入れれば良いかがすぐに判断できる。

 

◆withコロナにおける資金繰り

現状、ご存知の通り、新型コロナウイルス感染症の影響が長引くと予想されている。期間は諸説あるが、長ければ2~3年にも及ぶと言われる。その中で、売上が完全に回復できると見込める業種はともかく、飲食店などはソーシャルディスタンス確保の要請もあるので、以前の売上を回復できるまでに相当の時間がかかると予想される。

そうであるならば、長期の影響を盛り込んで資金繰りを考えておく必要がある。例えば、下記のような影響が生じると仮定するとどのようになるだろうか。

●架空企業A社のwithコロナの想定

 ・3月~5月の間、休業(図 3と同じ想定)

 ・6月から営業を再開するが、売上は徐々にしか戻らない
  (6月は平時の50%、7月・9月は60%、10月・12月は70%と想定)

 ・8月と11月は、感染の再拡大(第二波・第三波)により休業

 

かなり厳しい想定である。この時、前述した図 4と同様の金額で5月に借入を行い、さらにその後、第二波・第三波が来るたびに借入を重ねていくこともできるが、それでは毎月のように銀行と交渉しなければならないことになる。できれば最初に銀行とよく相談して、出来る限り先までのシミュレーションを行い、当初から大きな金額で借りておいていただきたい。もし収束が早まったらその時は早期に返済すれば良いのである。有事の現金残高は重要である。

そのように考えると、図 5のように、5月に大きな金額を借りておくことになる。ここではスペースの都合もあり12月までのシミュレーションとなっているが、出来ればもう半年や1年先までシミュレーションして、必要な金額を今のうちに借りておくことをお勧めする。

5  A社の資金繰り表のシミュレーション(withコロナの想定、5月に借入)

(出典:当社作成)

 

以上、資金繰り表による有事のシミュレーションを紹介した。withコロナと言われる今後の局面では、売上減の期間が長くなる可能性も十分にある。各社において、固定費の削減や新規の業態進出など様々な対応を行うことになるが、その対応のための時間を確保するためにも、資金繰りは重要である。

資金繰り表は、銀行や顧問税理士に依頼すれば作ってくれるので、平時から作成しておいていただきたい。相談できる相手が身近にいない場合は、財務に詳しい弁護士やコンサルタントに依頼すれば、コンサル料はかかるが作り方も教えてくれるだろう。私共もご依頼を受けられる。そうして平時から資金繰り表を作成しておけば、いざという時にすぐに上記のようなシミュレーションを自社で行って、方針を立てることができる。平時からと言っても、毎月作る必要はない。1年に1回、決算や予算を作る時などに、他の計画書や財務書類と一緒に作ればそれでよい。是非とも資金繰り表を身近なツールとして役立てていただきたいものである。

*1 雇用調整助成金の最新情報については必ず厚生労働省のHPを参照いただきたい。2020年5月20日時点では、一定の条件(都道府県知事の休業要請によることなど)を満たすと一部の助成率が100%となる制度が導入されている。ただし、助成額には上限が設けられている。自社のシミュレーションを行う際には最新情報をご確認いただきたい。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

 

*2 セーフティネット保証制度関連情報(指定リスト掲載)

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sefu_net_gaiyou.htm2020520日時点情報。最新情報は別途中小企業庁のHPなどでご確認いただきたい)

松原 真佑子

リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部

GRC推進グループ 上級コンサルタント

このコンテンツの著作権は、SOMPOリスクマネジメント株式会社に帰属します。
著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、SOMPOリスクマネジメントの許諾が必要です。
※コンサルタントの所属・役職は掲載当時の情報です。

リスクアセスメントに関するサービスのお問い合わせ


このサイトでは、アクセス状況の把握や広告配信などのためにクッキー(Cookie)を使用してしています。このバナーを閉じるか閲覧を継続した場合、クッキーの使用に同意したこととさせていただきます。なお、クッキーの設定や使用の詳細については「個人情報保護について」のページをご覧ください。