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いま、企業に求められるハラスメント防止対策(2020年4月21日掲載)
2020年4月21日
リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部
GRC推進グループ 上級コンサルタント
梶尾 詩織
昨年、労働施策総合推進法が改正され、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)防止の規定が明記された。これに伴い、2020年1月15日、職場におけるパワハラ防止のため、雇用管理上講ずべき措置等について定めた指針(以下、「パワハラ防止指針」)が告示された 。2020年6月1日から、大企業にはパワハラ防止措置をとることが義務化される。
「パワハラ防止指針」は、厚生労働省により指針案が提示された時から、メディア等にもたびたび取り上げられたため、ご記憶の方も多いと思う。主に話題になったのは、「パワハラ防止指針」に示された、パワハラに「該当すると考えられる例」、「該当しないと考えられる例」の妥当性である。
そもそも職場におけるパワハラとは、職場において行われる①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること、②業務の適正な範囲を超えて行われること、③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害することである。①~③をすべて満たさなければパワハラには該当しない。また、行為を受けた側がその行為を不満や不快に感じた場合であっても、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導であれば該当しない。
ポイントは、適正な指示・指導かパワハラかを、「客観的に」判断される点にある。例えば「指導の際、誤ってぶつかっただけだから、これはパワハラ6類型の『身体的な攻撃』に該当しないと考えられる例なので、パワハラではない」と行為者が言い訳できるようになったのではない。その行為が「誤ってぶつかった」のか「暴力をふるったのか」は、第三者から客観的に判断される。よって、行為者にパワハラの自覚がなくとも、第三者から客観的に見てパワハラなのであれば、パワハラと認定される。知らないうちにパワハラ行為をしないためには、自身の行為を客観的に振り返る視点が必要である。
ハラスメントに関してはこれまで、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止が法律で規定され、それぞれの指針(「セクシュアルハラスメント防止指針」(以下、「セクハラ防止指針」)、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止指針」)が告示されていた。今回、「パワハラ防止指針」において求められる措置も、「セクハラ防止指針」や「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止指針」とほぼ同じであるため、他のハラスメント対策とあわせてパワハラ防止の措置を講じていくことが望ましい。ハラスメント対策として事業主が講ずべき措置を以下にまとめたのでご参照いただきたい(図1)。
図 1 ハラスメント対策として事業主が雇用管理上講ずべき措置の一覧
:「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)」、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(セクハラ防止指針)」、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止指針)」(すべて厚生労働省)を基に当社作成
また、今回告示された「パワハラ防止指針」、ならびに「パワハラ防止指針」の告示にあわせて改定された「セクハラ防止指針」や「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止指針」では、事業主の責務だけではなく、労働者にもハラスメント防止の責務があると明記された。事業主および管理職者は、ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、事業主の講じる措置に協力するよう一般従業員を指導していくことが求められる。
さらに、「パワハラ防止指針」と「セクハラ防止指針」では、事業主は、自社の従業員が、他社の従業員や個人事業主、インターンシップを行っている者等、自社の従業員以外に対しても、ハラスメントを行わないよう、注意を払うことが明記された。カスタマーハラスメントと称される顧客からのハラスメントや、求職者へのセクシュアルハラスメントが問題化している中、自社の従業員が自社の従業員以外に対してもハラスメントを行わないよう、ルールの設定や指導をしていくことが望まれる。
法律改正とそれに伴う各指針の告示・改定により、パワハラをはじめとするハラスメントへの関心は高まっている。事業主および管理職者にはパワハラを含む職場のハラスメント防止が当然に求められるが、その先には、誰もが働きやすい職場環境づくりを目指していただきたいという思いがある。下図は、経営リスクの一つとしてハラスメント・リスクを管理する必要性について示したものである(図2)。
図 2 ハラスメントの影響:当社作成
職場にハラスメントが存在すると、従業員が意欲を失い、緊張感からミスを誘引する等、企業の人材に悪影響が及ぶことは想像に難くない。企業の競争力や生産性が低下する、大きな問題である。
しかし、ハラスメントの影響はそれだけにとどまらない。ハラスメントがある職場では人間関係の悪化から適切な情報共有が行われづらくなる。特に、悪い情報は企業の上層部に報告されづらくなり、不正や不祥事の情報を検知し対処するといった、内部統制システムが意味をなさなくなるおそれがある。結果として、企業内での不正や不祥事が誘発される可能性もある。
昨今、企業にはコンプライアンスの推進が社会から強く求められている。ハラスメント関連法律改正への対応とハラスメント防止措置の義務化に対応するのはもちろんのこと、コンプライアンス推進を見据えてハラスメント防止対策を実施することが望まれる。
梶尾 詩織
リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部
GRC推進グループ 上級コンサルタント
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※コンサルタントの所属・役職は掲載当時の情報です。
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