リスクマネジメント手法としてのキャプティブの活用

全社的リスクマネジメント

2019年10月15日

リスクマネジメント事業本部
リスクソリューション開発部

担当課長

棟方 章晴

巨大地震リスク、大規模リコールリスク、サイバーセキュリティーリスクなど、企業経営に大きな影響を及ぼすおそれのあるリスクが万一顕在化した場合には、財務内容の劣化や経営指標の悪化を招きます。企業には、このようなリスクに対するリスクコントロールに取組み、適切なリスクファイナンスを検討・実施することで、ステークホルダーにコミットした経営目標の達成を阻害するリスクに対処していくことが求められます。こうしたリスクへの対処手段の1つに「キャプティブ」と呼ばれるものがあります。

 

「キャプティブ」は、リスクマネジメントおよびリスクファイナンスの手法の1つであり、企業が自社のリスクを引き受けるために設立する保険子会社です。欧米企業では広く普及しており*1、通常、キャプティブ法制度が整備された国や地域に設立されます(キャプティブ設立地をドミサイル*2と呼びます)。

 

キャプティブは、元受損害保険会社が引き受けた貴社のリスクの一部を再保険の形態で引き受けます。そのため、損害がなければ、あるいは、損害を防止・軽減できれば、保険引受収益がキャプティブに内部留保されます。一方で元受保険契約に損害が発生した場合には、元受保険会社が貴社に保険金をお支払いした後に、キャプティブは元受保険会社に再保険金を支払う必要がありますので、企業におけるリスク管理がより重要となります。

 

キャプティブを活用することにより、以下のメリットを享受できます:

 ①リスクマネジメントの高度化

  • キャプティブを通じて、貴社グループのリスクの一元的な管理や事故原因分析による再発防止に活用できます。

  • 自社の取り組みにより損害を防止・軽減できれば収益還元されるため、リスクマネジメント推進のインセンティブとなりま
    す。

  • キャプティブの収益を配当金として貴社に還元し、リスク低減活動等の原資として活用することが可能です。

  • キャプティブを自社グループ内に持つことにより、保険会社の持つ会計上の利点をリスクマネジメント戦略に取り入れるこ
    とが可能となります。

  • 保険会社しかアクセスできない再保険マーケットへのアクセスが可能となり、再保険マーケットを活用したリスクマネジメ
    ントが可能となります。

 ②従来保険化が困難といわれているリスクの保険化

  • リスクに関する情報が不十分なリスク等、一般的に保険会社単独では保険化が難しいリスクがあります。保険会社とキャプ
     ティブがリスクを分け合うことで、従来保険化が困難だったリスクを保険化できる可能性が生まれます。

 ③オーダーメードのリスクファイナンススキームの構築

  • 貴社の財務戦略やリスク許容量等を踏まえたリスクファイナンススキームを構築することも可能です。
   例)貴社が許容できない規模の損害・事故については保険会社にリスクを移転し、比較的小規模の損害はキャプティブで
     リスクを保有する。

 

リスクファイナンス手法として欧米では広く普及しているキャプティブですが、日本国内ではあまり知られておらず、また、知られていたとしても、「租税回避地(タックスヘイブン)に海外子会社を設立し、節税メリットを享受するためのもの」として認識されている事例が多いように感じられます。2019年度時点の税制では、租税回避地と本邦の実効税率の差分に相当する税額は、本邦側(キャプティブオーナー)が日本国内で納税すること(合算課税)とされており、国税当局は租税回避地に所在する子会社の監視に注力しています。キャプティブ利用による節税メリットは原則存在せず、あくまでもリスクファイナンス、リスクマネジメントのための手段として導入するものとの認識が肝要です。

 

*1 Business Insurance 『2019 Captive Managers & Directory Listing』によると、2018年度には6,337社のキャプティブが実際に運営されています。親会社の多くは欧米の会社で、Fortune 500 のうち8割の企業は何らかのキャプティブを持っているとされています。

*2キャプティブ設立地(ドミサイル)についてキャプティブは、キャプティブの法制度のある国・地域に設立することができます。設立地(ドミサイル)には、キャプティブの運営を支援するマネジメント会社(運営管理会社)、弁護士、会計士、保険数理人、金融機関などのインフラが整備されています。日本企業の多くは、ハワイ、ミクロネシア、ラブアン、バミューダに設立しており、特に近年はハワイとラブアンに設立するキャプティブが増加しています。

参考文献

 池内、杉野、前田:キャプティブと日本企業―リスク・マネジメントの強化に向けて、2013

 Business Insurance, “2019 Captive Managers & Directory Listing”, 2019

棟方 章晴

リスクマネジメント事業本部
リスクソリューション開発部

担当課長

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