孤立が生み出す社会課題・健康リスク ――日英の事例

医療・介護

2018年7月27日

リスクマネジメント事業本部

上級コンサルタント

高杉 友

2018年1月、英国では日本の文部科学省政務次官にあたる人物を「孤独担当大臣」という新たなポストに任命し、年内に政府横断的チームで社会的な孤独を解消するための戦略を策定する予定だ1)。また、専用基金によって慈善団体などに2,000万ポンド(約29億円)を支援する2)。この情報を受けて、日本と英国において孤立から生じる社会課題や健康リスク、その対策について調べてみた。

英国でこれらの対策を推進する背景には、2017年に同国で実施した調査で、様々な人々が孤独を感じていて、社会的なつながりの喪失により約4.7兆円の経済的な損失や健康被害が見込まれることが示されたことがある(下表)。

表 英国の孤独に関する調査結果(2017年)

対象 製造・加工・調理・販売・保管業等すべての事業者(事業規模は考慮しない)
孤独を感じる
  • 900万人以上の成人が、常にもしくはしばしば孤独を感じている。
  • 20万人の高齢者が月に1回も友人や家族と会話をしない。360万人の高齢者にとって、主な友人はテレビである。
  • 子どもを持つ半数以上の親は孤独問題を抱えている。
  • 85%の18~34歳の身体障害者が孤独を感じている。
  • 58%のロンドン在住の移民・難民が孤独・孤立を一番の課題と考えている。
損失金額・健康被害(見込)
  • 社会的なつながりの喪失で年間320億ポンド(約4.7兆円)の英国経済損失。
  • 社会的つながりが弱まることは一日15本喫煙することと同様の健康被害。

(出典:”Jo Cox Commission on Loneliness: A call to action” 3)より当社作成)

さて、日本でも一人暮らし世帯は1,600万世帯を超え、全世帯の3割以上を占める4)。65歳以上の高齢者の人数及び一人暮らしの増加も顕著である5)。さらに、50歳未満時生涯未婚率は男性23%、女性14%と増加傾向である(2015年)6)。これら高齢者や未婚者の増加により、今後も一人暮らし世帯が増加すると考えられる。また、OECD*1加盟国21か国中、日本は友人や同僚等と過ごすことは「まれ」あるいは「ない」と回答した割合がメキシコに次いで2番目に高く、社会的孤立が進んでいることを示している。特に、その状況は女性よりも男性の方が顕著である7)

社会ネットワーク(周囲からの支援)を得られず社会的孤立に陥ると、不健康につながりやすく、抑うつ、心疾患、脳血管・循環器疾患、がん、認知症など様々な疾患の死亡リスクが高まることが報告されている8), 9)。また、貧困や障害をもつ社会的弱者ほど社会的孤立に陥りやすく、健康格差*2を生み出す要因にもなっている。厚生労働省が国民の健康増進を推進するために策定した「健康日本21(第2次)」では「健康格差*2の縮小」や「社会環境の質の向上」が掲げられ、より多くの人が社会参加でき、健康づくりの資源にアクセスできる社会を目指している 10), 11)。例えば、「家族や友人と一緒に運動を行っている人は不健康と感じる人が少ない12)」、「月に1-4回程度、友人と会っている人は、友人とほとんど会っていない人に比べ、糖尿病リスクが半減する13)」、「介護予防サロン(体操、おしゃべり、園児との交流等様々なプログラムを提供)に頻繁に参加した人は参加していない人に比べ、要介護認定を受けた人は約半分となり、年4回以上の同サロン参加者は認知症を発症する確率が3割減少している」という報告がある14), 15)

以上のように、「孤独担当大臣」を新たに設置した英国に比べ、日本における社会的孤立はより深刻な状況である7)。国が取り組むべき戦略としては社会保障政策の拡充、地方行政レベルでは安心・安全なまちづくり推進や子どもから高齢者まで様々な世代が交流できるイベントの企画や社会的ネットワーク強化を目指したコミュニティ開発などがあるだろう。一方、地域や個人レベルでも一人暮らしの人が集える食堂やサロンなどの場所づくり、ソーシャルメディアへのアクセス、ウォーキングアプリでの町歩き、VR(仮想現実感)*3による疑似体験などの技術を活用して孤独感を解消させるなど、日本でも早急に社会的孤立対策を国、地域、個人レベルで考えることが必要ではないだろうか。

*1 OECD:Organization for Economic Co-operation and Development(経済協力開発機構)
*2 健康格差:地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康状態の差
*3 VR (Virtual Reality):事実上の実質的な現実感

高杉 友

リスクマネジメント事業本部

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