御社は大丈夫?自動車使用管理計画制度とその動向

ESG/CSR/環境

2019年1月21日

リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部

専門は環境法規制、環境マネジメント、不動産ESG評価、生物多様性

冨田 翔

昨今、自動車の環境規制の強化が世界的に加速している。それは、メーカー各社の自主的な取り組みや方針の発表にとどまらず、各国政府から排ガス及びガソリン車の規制として相次いで発表されている。 
例えば、フランス及びイギリスが2040年までに国内のガソリン及びディーゼル車の販売を禁止すると発表したことは、マスコミ報道等で目にされた方も多いのではないだろうか。 
日本でも経済産業省の研究会「自動車新時代戦略会議」の中間整理(2018年8月発表)の中で、「2050 年までに自動車1 台、1km あたりの温室効果ガス排出量を2010 年比で8 割程度削減」することを掲げられ、達成した場合2050年までに世界で供給する日本車すべてが電動車*1になるだろうという想定が示されている。

これらの自動車のEV*2化への大きな流れとともに、以前から継続して取り組まれているガソリン車・ディーゼル車の排ガス規制、低公害化・低燃費化の取り組みも年々厳しさを増している。NOx*3・PM*4等による公害被害の防止のほか、自動車排ガスに起因する温室効果の影響を抑制するため、日本国内においてもメーカーに対する新車の排ガス規制基準が設けられ、様々な対策が行われているところである。

一方で、上記の問題や、それに対処するための様々な規制や義務の対象は、自動車メーカーのみにとどまらない。実は、普段あまり気に留めていないかもしれないが、日本国内においても、メーカーだけでなく、自動車の所有者・使用者に対しても様々な規制が設けられ、また義務として取り組みが求められているのである。

今回はその中でも、自動車使用管理計画制度等の報告制度について、見ていきたい。 
自動車の所有者・使用者に係る、主要な報告制度をまとめたものが下表(表1)である。

表1 全国の自動車使用管理計画等報告制度*5

制度主体 制度・報告書名称
(根拠法令等)
報告要件(義務要件) 報告頻度 報告内容、備考
自動車使用管理計画
(NOx・PM法*6
対象となる各都府県(※)内の対策地域において自動車(軽自動車、二輪車等を除く)を30台以上使用している事業者 ※埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県 毎年度
※計画は5年に1度
・車検証上の車両情報(1台ごと)
・年間走行距離、給油量(1台ごと)
・排出量の目標
・車両代替(更新)計画
など
群馬県 自動車環境計画書
(群馬県地球温暖化防止条例)
自動車の使用の位置を県内に登録している車両を100 台以上保有 毎年度 ・車両保有総数
・低燃費車の台数
・自動車使用に伴う温室効果ガスの排出抑制のための実施措置
埼玉県 自動車地球温暖化対策計画
(埼玉県地球温暖化対策推進条例)
県内で自動車(軽自動車・自動二輪車を除く)を30台以上使用する事業者 ※200台以上の自動車を使用する事業者は低燃費車の導入義務有(平成32年3月31日までに導入率20%以上) 毎年度
※計画は5年に1度
報告内容は、NOx・PM法に準ずる。(一部様式共用可)
千葉県 自動車環境管理計画書
(千葉県環境保全条例)
県内で自動車(軽自動車・自動二輪車を除く)を30台以上使用する事業者 毎年度
※計画は5年に1度
報告内容は、NOx・PM法に準ずる。(一部様式共用可)
東京都 自動車環境管理計画書
(東京都環境確保条例)
都内ナンバーの自動車を30台以上使用する事業者 ※200台以上の自動車を使用する事業者には低公害・低燃費車の導入義務有(平成33年3月31日までに導入率15%以上) 毎年度
※計画は5年に1度
NOx・PM法の報告内容に加え、 ・低燃費車区分
・低公害車・低燃費車の導入計画
などの報告要。
山梨県 自動車環境計画
(山梨県地球温暖化対策条例)
県内でトラック30台、バス40台、タクシー20台以上を使用する事業者 毎年度
※計画は3年に1度
・車両使用台数
・年間燃料使用量
・自動車使用に伴う温室効果ガスの排出抑制のための実施措置
愛知県 低公害車導入状況報告書
(県民の生活環境の保全等に関する条例)
県内で乗用車換算で、200台以上の自動車を使用する事業者 毎年度 ・車検証上の車両情報(1台ごと) ※燃費達成基準もH29年度実績より任意報告となっている
滋賀県 自動車管理計画書
(滋賀県低炭素社会づくりの推進に関する条例)
県内に使用の本拠を有する、事業用の自動車を100台以上使用する事業者
(※軽自動車含む。二輪は対象外)
毎年度
※計画は3~5年に一度
・車両使用台数(事業所別・車種別)
・自動車使用に伴う温室効果ガスの排出抑制のための実施措置等
広島県 自動車使用合理化計画書
(広島県生活環境の保全等に関する条例)
県内の事業所において、50台以上の自動車を使用する事業者
(※軽自動車、二輪車は対象外)
毎年度
※計画は3年に1度
・車両使用台数(事業所別・車種別)
・低公害車等導入計画
・自動車使用に伴う温室効果ガスの排出抑制のための実施措置等
香川県 自動車排出ガス対策計画書
(香川県生活環境の保全に関する条例)
県内の事業所において、50台以上の自動車を使用する事業者
(※軽自動車、二輪車は対象外)
毎年度
※計画は3~5年に一度
・車両使用台数(事業所別・車種別)
・低公害車等導入計画
・自動車使用に伴う温室効果ガスの排出抑制のための実施措置等
札幌市 自動車使用管理計画書
(札幌市生活環境の確保に関する条例)
市内で事業用自動車使用台数50台以上の事業者
(※二輪車を除く)
毎年度
※計画は3年に1度
・車両使用台数
・年間燃料使用量 ※環境保全行動計画書と一体の様式
広島市 自動車環境計画書
(広島市地球温暖化対策等の推進に関する条例)
市内の事業所において、50台以上の特定自動車を使用する事業者(※軽自動車含む。二輪は対象外) 毎年度
※計画は3年に1度
広島県に準ずる。(一部様式共用可)

(出典:官公庁公開情報*7を元に当社作成)

報告制度については、1地域で30台程度の使用台数から義務の対象となり、NOx・PM法による規制のかかる3大都市圏のみならず、独自の条例によって地方にも広がりを見せている。また、あくまでも、車両に特化した報告を必要とする制度のみでこの数であり、事業所のエネルギー使用量の報告の中で、自動車の使用台数と車種、および年間の燃料使用量等を報告する制度に至っては、全国で30弱の自治体で運用されている。

これらの報告義務の多くは、輸送用の車両のみならず、営業車等の社用車すべてが対象となっており(例:東京都、埼玉県、千葉県など)、軽自動車も対象となっているもの(東京都、滋賀県、広島市など)があり、気づかぬうちに自社が対象となっており、義務違反を犯している状況になっていないか注意が必要である。 
また、制度の中には、低公害車・低燃費車導入の義務を設けているところ(例:東京都、埼玉県)もあり、対象となっている場合でも行政側から連絡が来るとは限らないことから、自社のコンプライアンス上のリスクの一つとして認識し、情報収集を行うことが重要となっている。

以上のように、法規制等の対応の観点からも、報告等の義務となっている事項の把握と、適切な対応が必要となっている。また、報告内容の精緻化・厳格化、および低公害車・低燃費車の一定以上の導入の義務化の動きもあり(一例としては、愛知県で低燃費車の報告が2017年度実績報告より任意で追加されており、近いうちの義務化が想定されている)、自社の所有する自動車について状況を把握し、環境負荷の大きい車両について、低公害・低燃費の車両に適切に更改していく計画の策定が求められるところである。 
低公害車・低燃費車から、EVへ。時代の流れに沿った、環境負荷の低い車両への更改に向けて、まずは現状の車両による環境負荷の把握と所管官庁・自治体への報告義務への対応、将来に向けた車両更改計画の作成からはじめてみてはいかがだろうか。

*1
xEVのことを指す。該当するものは、 電気自動車(BEV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCEV)。
*2
Electric Vehicleの略で、日本語では電気自動車を指す。
*3
窒素酸化物のこと。一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等が代表的。光化学スモッグや酸性雨の原因となるほか、二酸化窒素(NO2)は人の呼吸器にも悪影響がある。
*4
Particulate matterの略で、日本語では粒子状物質と言う。固体及び液体の粒子の総称で、特に粒径10μm以下の浮遊するものは浮遊粒子状物質(SPM)と呼ばれる。肺や気管などに沈着して、人の呼吸器に悪影響を及ぼす。
*5
本文中にも補足があるが、車両に特化した報告を必要とする制度のみを一覧化したものであり、事業所の報告等と一体となった制度は対象外としている。また、網羅性を担保するものではない。
*6
正式名称:自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法
*7
中央官庁、及び各地方自治体のホームページなどインターネット上の公開情報(アクセス日:2018年5月)

参考文献

自動車新時代戦略会議.中間整理2018年8月31日.経済産業省
http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosha_shinjidai/pdf/20180831_01.pdf

冨田 翔

リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部

専門は環境法規制、環境マネジメント、不動産ESG評価、生物多様性

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