重大なPLリスクを抱えた日本の産機取説事情――輸出用産業機械の取扱説明書が抱えるPLリスク(150526)

日本では、1995年7月1日のPL法(製造物責任法)施行に先立ち、経済産業省は1994~1995年に俗に「経済産業省(旧通産省)の表示ガイドライン」と呼ばれる取扱説明書や警告ラベルの警告表示の在り方を示すガイドラインを発表しました。この「経済産業省の表示ガイドライン」は、各工業会で基本となるベースガイドラインとして採用され、消費者用製品だけでなく、重電機製品や電気機器を内蔵する産業機械などの産業用製品にも幅広く適用されてきました。いわば日本の警告表示のガイドラインとして位置づけられてきました。

一方、厚生労働省は、労働安全衛生法を所管し、産業機械による労災事故や安全衛生事故を防止すべく長年にわたって安全規制を強化してきました。そして産業機械の取扱説明書分野に関しても、2012年4月1日から、産業機械のメーカーに対し、機械を譲渡または貸与する相手方事業者に向けて、「機械に関する危険性等(残留リスク情報)を通知すること」を努力義務化する労働安全衛生規則の改正に踏み切りました。「努力義務化」ですが実質「強制化」と産業機械業界は受け取っています。この規則改正に伴い、2012年3 月に同省は産業機械の取扱説明書の表示ガイドラインに相当する機械メーカー向けの「機械ユーザーへの機械危険情報の提供に関するガイドライン(厚生労働省の表示ガイドライン)」を公表しています。

「経済産業省も厚生労働省も、機械のエンドユーザーである作業者の安全を図るべく、産業機械メーカーに対し、警告表示の作成ガイドラインを提示しているのだから結構なことではないか」と思う人も多いでしょう。しかし、経済産業省と厚生労働省の両省の表示ガイドラインを実現しようとする時、産業機械をはじめとする産業用製品の取扱説明書には次のような問題点が発生しています。

(1)経済産業省と、厚生労働省の表示ガイドラインにおいて双方の「警告表示区分の定義」が異なっている。どちらを優先すべきか判断がつかない。仕方なく一つの取扱説明書に両方の定義を併記しているケースがある。

(2)厚生労働省の表示ガイドラインに沿って、機械メーカーはエンドユーザー向けの取扱説明書に「残留リスク情報」を明記している。しかし、「残留リスク」の表記がPLリスクの曝露となっているケースがある。

これら両省の表示ガイドラインに沿って作成された産業機械の取扱説明書が、国内向け製品にだけ添付されている場合、日本の司法におけるPL問題は、おそらく発生しないと思われます。しかし、このような問題点を抱えた産業機械が米国や欧州へ、特に米国へと輸出された場合、そして日本語版取扱説明書がそのまま翻訳され英語版取扱説明書として使用された場合、PL上の大きな問題を内包することとなります。

日本の産業機械により不幸にして労災事故が発生した場合、米国では機械メーカーに対するPL訴訟に発展します。その際、被告となった産業機械の日本メーカーは、このPL上の問題点を抱えた取扱説明書のために、非常に不利な立場に陥ることが予想されます。現状では「カモがネギを背負って来る」カモネギ状態になっている取扱説明書も見受けられます。日本企業が、「手ぐすねして待ち構える米国の原告側弁護士の格好の餌食となるのか!」との感があります。

本紙では、両省の表示ガイドラインの使用方法に関して「警鐘」を鳴らすと共に、両省の表示ガイドラインの使用に当たって、何が米国のPL裁判で日本の産業機械メーカーに不利に働く恐れがあるのか?について説明し、両省の表示ガイドラインの適用に当たって、どのような点に留意すればよいのか?について解説します。本紙を熟読し、転ばぬ先の杖として活用していただくことを心から願っております。本資料が企業の皆様のリスクマネジメントに、いささかでもお役に立てば幸いです。

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*地域:米国、アメリカ、欧州、日本